電子レンジで光速を測ろうとしたけど上手く行かなかったでござるの巻 続き

今北産業

  • 電子レンジで光速を測定できるという話は物凄く疑わしい

あ、一行で終わった。



前回の実験
電子レンジで光速を測ろうとしたけど上手く行かなかったでござるの巻 - ka-ka_xyzの日記 電子レンジで光速を測ろうとしたけど上手く行かなかったでござるの巻 - ka-ka_xyzの日記

の続き。



追記(2015/02/24):

電子レンジで光速なんか測っちゃダメダヨー

ということで、もともとの実験レポのほうでも訂正が出てました。



概要

前回行った実験「電子レンジで光速を測ろうとしたけど上手く行かなかったでござるの巻 - ka-ka_xyzの日記」では熱感応紙を使用して電子レンジの過熱室内で加熱されるスポットを検出し、スポット間の距離が2450MHzの光の半波長(6 cm)の整数倍になるかどうかを確認することを試みた。
しかしながら、得られた結果としては過熱スポットを検出できたものの、スポット間の距離は理論値と一致していなかった。また、電子レンジ加熱室の中央部分で過熱スポットが検出されていなかったが、これは日常的に電子レンジで食品を加熱できているという結果とは矛盾するデータであった。

このようなデータが得られた原因として、電子レンジは水分を過熱するため、熱感応紙上の濡れ方が均一でないと、場所によって検出感度が変化してしまうという理由が考えられる。

今回の実験では、熱感応紙による過熱検出システムを改良することで、電子レンジ加熱室の中央部分に近い場所に過熱スポットを検出することに成功した。しかしながら、過熱スポット間の距離はやはり理論値とは一致しなかった。

また、本実験の結果および先行研究の再調査を行ったところ、過熱スポット間の距離を測定して光速を計測できるという主張は非常に疑わしいと思われる。

まてめそ

前回の実験 電子レンジで光速を測ろうとしたけど上手く行かなかったでござるの巻 - ka-ka_xyzの日記 ど同様である。ただし、熱感応紙の上をサランラップで覆うことで水分の蒸発を防ぎ、検出感度のムラを抑える。
また、熱感応紙を水から取り出した後で適度に水を切る必要がある。

結果

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fig. 1 30秒間過熱した熱感応紙1

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fig. 2 30秒間過熱した熱感応紙2

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fig. 3 30秒間過熱した熱感応紙3

距離の値については、実測した数値を使用し、0.5 cm刻みで丸めた。


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fig. 4 測定の例

そのため、画像上の距離との食い違いが生じている可能性がある。

熱陥凹氏の中央部分が電子レンジ加熱室のほぼ中央となるように設置しているが、実験によりバラつきが生じている可能性もある。

また、書く過熱スポットのサイズがより小さいタイミングで過熱を中止する事を試みたが、ほぼ一瞬で上記のサイズまでスポットが広がるため、断念した。

ほぼ同一条件で実験を行っているが、fig. 1の結果と fig.2, fig.3の結果にはかなりの違いが見られる。また、fig. 2, fig. 3についても、過熱スポットのパターンは類似しているものの、各スポット間の距離は理論値(2450MHzの光の半波長である6 cm)やその整数倍の値には当てはまらない。

考察

前回の実験で疑問であった、「加熱室の中央部分に過熱スポットが検出されない」と言う問題は実験手法の改善により解決できた。しかし、やはり各過熱スポット間の距離は理論値(2450MHzの光の半波長である6 cm)とは一致していなかった。この結果は、実験手法の問題では無く、実験の作業仮説そのものに問題がある可能性を示唆している。
そこで改めて先行研究を調査したところ、以下のサイトを見つける事ができた。

MICROWAVE MADNESS(:

このサイトではアクリル板を使用して過熱スポットの検出を行っており、実際に計測された過熱スポット間の距離について度数分布図を示しているが、やはり理論値である 6 cm 付近に度数のピークは認められない*1
今回の実験で得られた結果と一致する訳ではないが、過熱スポットの可視化を行うと整ったパターンとならず、各スポット間の距離もバラつきが出るという点については共通している。


また、以下のサイトでは電子レンジ内の過熱パターンがかなり複雑なものであると述べており、光速度を測定することは現実的ではないと結論付けている。

E&M field in microwave oven: more complicated than you think | Science | WEN'S Horizon

以下、結論を引用する。

VI. Conclusions

E&M field in microwave oven is analyzed. It is not a simple plain wave or a 1D standing wave. Thus the method of measuring speed of light by measuring 6cm apart hot spots does not make sense. Instead, the method by measuring “components” of wavelength is more reasonable. However, it is valid only in the ideal resonant cavity approximation. In a real microwave oven, all sorts of perturbation can fail this method.

適当訳

VI. 結論

電子レンジの電磁フィールドについて解析を行った。これは単純な一次元の定常波では無い。よって、過熱スポット間の距離 6 cm を測定することで光速度を測定するという手法は意味が無い。そのかわり、波長の"コンポーネント"を測定することがより合理的な方法である。しかし、理想的な共振空洞近似にある場合だけで有効である。現実の電子レンジでは、あらゆる種類の摂動によってこの方法は失敗し得るであろう。

このサイトの内容については、正直な所筆者の理解の範囲外である部分が大きい。しかし、電子レンジの電磁フィールドは単純な定常波ではなく、様々な条件により複雑に変化するという主張は、今回の実験結果を見ると妥当であると判断できる。


さらに、もともとこの実験を行うきっかけとなった下記の記事では

チョコレートをレンジでチンして光の速さを計算してみる

ちなみに本実験はターンテーブルつきのレンジだと成立しません。今回はターンテーブルがないタイプのレンジを使いましたが、回転皿つきの機種をお使いの場合は説明書の注意に従って取り外して下さい。

とあるが、ターンテーブルが無い電子レンジでは加熱ムラを避けるために機械的にマイクロ波の照射角を変更するといった機能が組み込まれているようである。

電子レンジのターンテーブル - @nifty教えて広場

一方、現在主流になっている、フラットタイプの物は、アンテナ(マイクロ波を出す部分)を動かす事により、食品を動かさずともムラのない温めをできるように、と開発されたものです。

この背景にはセンサーの進歩も見逃せない要因です。
ターンテーブルタイプの物は、元々は時間を自分で合わせて、食品が温まろうが温まらまいが、時間が来るまで動き続けるものです。
この当時の物は「センサー」等と言う物のは装備されていませんでした。
これが少し進化し、「重量センサー」「湯気センサー」等を装備する事により、レンジが自動的に運転時間を決めてくれるようになりました。
しかし、この「重量センサー」「湯気センサー」では、「重い器(軽い器)に少量(大量)の食品を載せて運転した時」や「湯気の出にくい(出やすい)食品」を調理する際の、温めすぎや、その逆が当たり前のように起こっていました。

そこで、メーカーが開発したのが、「赤外線温度センサー」です。
これは、食品そのものの温度を遠隔から、しかも秒単位で計る事ができるセンサーです。

この遠赤外線温度センサーとアンテナが動く事で、温めムラ、温め過ぎ、温まらない等の不満を解消できるようになり、同時にお好みの温度まで運転する事ができるようになったわけです。

つまり、短時間で見れば定常波により局所的な過熱が行われるものの、過熱スポットは常に移動するため、長時間で均してみれば均一に加熱されるはずである。もちろんQAサイトの記載内容が全て信頼できるかというと疑問ではあるがターンテーブル無しで加熱ムラを防ぐために、このような仕組みが存在していると考えることは妥当であると思われる*2
元の実験での加熱時間(20から30秒)で過熱スポットの移動が起きるかどうかは電子レンジの機種に依存するはずだが、電子レンジ側の機構により過熱スポットが移動する可能性を排除できない。

これらの理由により、電子レンジで光速度を測定するという手法、およびそれにより得られる実験結果については懐疑的に見ざるを得ない。


あらためてまとめ

論文文体に飽きたので元の文体にもどってみます。

色々自分で実験してみた結果として、やはりこの「電子レンジで光速を測定する」っていう話は裏付けの無いインターネットフォークロアっぽい気がします。少なくとも自分が見つけることが出来た肯定的な結果は、全てチョコレートやらマシュマロやらを使った実験で、どうにもこー厳密さに欠けるというかいくらでも結果をチェリーピック出来そうな感じです。
また、もしかしたら電子レンジによっては測定条件次第で過熱スポット間の距離が6 cm程度になるものも有るかもしれませんが、そこからダイレクトに電磁波の波長が6 cmであると言えるかどうかっていうと無理っぽい。
あとは、過熱スポットは点じゃなくてある程度の面積を持ってるので、「スポット間の距離が6 cmで有るべきだ」と予断を持ってたら、予断に合わせて測定してしまう可能性もある。

まあ、他サイトの引用だけで「証明完了、わははははは」とか書くのもあんまし科学的じゃないよなーということで実験を繰り返した次第。



追記(2015/02/24)補足


電子レンジで光速なんか測っちゃダメダヨー

加熱むらが定常波に由来するもので、それが円に沿うならば、その間隔は波長由来でない可能性が高い。マグネトロンからのマイクロ波を伝えるアンテナの挙動に依存するはずです。

なるほどわからん(だって化学工学→生物って経歴だったんで電磁波とか扱うのむりぽ)。
いやー、でも久々の実験は楽しかったなあ。


*1:この点について実験者は、検出手法の問題である可能性があると述べている

*2:ちなみに、本実験はターンテーブル式の電子レンジを使用している。熱感応紙の固定方法については前回の記事を参照