「STAP細胞 TCR再構成は無かった」という話の衝撃

2014/03/08
うーん、やはり先走り過ぎてると思ったので
ちょっと頭を冷やした状態で改めて改めてSTAP細胞について(結論:よく分からん) - ka-ka_xyzの日記
を書きました。今のところ、よく分からんというのが実感。



STAP細胞の件については以前「専門家の間で白黒付く前に手出しすると火傷するお」と言うようなことを書いたのですが、物凄い衝撃的なニュースが出たので、ちょい解説します。

自分の立ち位置について

こういう方面について書くと、現役研究者なり学生なり科学ジャーナリストっぽい人なりと間違われるかもしれないので念の為最初に書いておきますが、自分は研究者じゃ無いです。世に『研究者の卵』っていう表現が有るけど、言うならば『研究者の無精卵』(賞味期限切れ)っていうか、博士後期課程単位取得退学者ですわ。一応生物系専攻だったんですが、今働いてる仕事には専攻は全く関係してません。

研究の世界について(ちょっと古いものの)ある程度の基礎知識は有り、研究社会の中の人では無いって立ち位置。

本題

衝撃的なニュースというのはこちら。

STAP細胞作製に関する実験手技解説の発表について | 理化学研究所 STAP細胞作製に関する実験手技解説の発表について | 理化学研究所

ドキュメント本体
(pdf) Essential technical tips for STAP cell conversion culture from somatic cells (pdf) Essential technical tips for STAP cell conversion culture from somatic cells

この、STAP細胞を作成するための手順を解説したドキュメントなのですがその中に
STAP幹細胞にTCR再構成は無かったという記述が存在していました(しかも"Important"って項目に)。

We have established multiple STAP stem cell lines from STAP cells derived from CD45+ haematopoietic cells. Of eight clones examined, none contained the rearranged TCR allele, suggesting the possibility of negative cell-type-dependent bias (including maturation of the cell of origin) for STAP cells to give rise to STAP stem cells in the conversion process. This may be relevant to the fact that STAP cell conversion was less efficient when non-neonatal cells were used as somatic cells of origin in the current protocol.

この点については様々なところで突っ込まれていますが、

STAP細胞の非実在について | kahoの日記 | スラッシュドット・ジャパン STAP細胞の非実在について | kahoの日記 | スラッシュドット・ジャパン
(コメント欄)

慶應大学 吉村研究室 - STAP幹細胞にTCR再構成はなかった 慶應大学 吉村研究室 - STAP幹細胞にTCR再構成はなかった

生物系以外の人にはわかりにくいと思うので、この文章の持つインパクトについて(自分の理解できている限りで)説明します。

まず、T細胞レセプター(TCR)とは何かって話ですが、取り敢えずWikipedia

T細胞受容体 - Wikipedia

T細胞レセプターをコードしている遺伝子は、幹細胞からT細胞へと分化(何にでもなれる細胞から、専門職な細胞へと変化すること)する際に再構成され、様々なパターンを作り出します。例えるなら、綺麗に並んでいるトランプをシャッフルし、一部のカードを捨てたりしているような感じです。一旦そういう風にシャッフルしてしまった後のトランプを元の並び順に戻すことは不可能なはずです。

で、今回小保方氏は論文中で、「STAP幹細胞はT細胞がリセットされたものです、その証拠にTCR遺伝子はシャッフル済みです」と主張していました(論文のFig. 1i)。

また、理研のプレスリリース(魚拓)
http://www.riken.jp/pr/press/2014/20140130_1/ - 2014年3月5日 22:41 - ウェブ魚拓

でも、以下のように「T細胞受容体遺伝子が組み替えられているTCR再構成が発生している)ということから、一旦T細胞に分化した細胞が初期化されたことがわかる」と明確に書かれています。

次に、リンパ球の特性を生かして、遺伝子解析によりOct4陽性細胞を生み出した「元の細胞」を検証しました。リンパ球のうちT細胞は、いったん分化するとT細胞受容体遺伝子に特徴的な組み替えが起こります。これを検出することで、細胞がT細胞に分化したことがあるかどうかが分かります。この解析から、Oct4陽性細胞は、分化したT細胞から酸性溶液処理により生み出されたことが判明しました。

これらのことから、酸性溶液処理により出現したOct4陽性細胞は、一度T細胞に分化した細胞が「初期化」された結果生じたものであることが分かりました。これらのOct4陽性細胞は、Oct4以外にも多能性細胞に特有の多くの遺伝子マーカー(Sox2、 SSEA1、Nanogなど)を発現していました(図3)。また、DNAのメチル化状態もリンパ球型ではなく多能性細胞に特有の型に変化していることが確認されました。


ちなみに、このプレスリリースを読んだ時の自分の反応はこんな感じ。





TCR遺伝子が再構成されている」というデータは、分化済みのT細胞がリセットされてSTAP幹細胞になったという主張のキモだったはずです。それが理研の出したドキュメントであっさり覆った衝撃ときたら。

正直、「あんまりだよ!こんなのってないよ!」と叫びたい気分。今後STAP細胞についてどのような展開になるか未だ分からない状況ですが(おそらく「リセット」説から「スクリーニング」説に切り替えてくるんじゃないかな)、この件については性善説を捨てます。てか、マジ無いわこんな展開。激おこ。

追記

よく見たら途中から解説じゃ無くなってた。

追記2

STAP細胞(およびそこから派生したと言われるSTAP幹細胞)の存在自体については、まだまだ結論を出すには早すぎます。何のかんの言って共著者の若山教授はかなり自信が有るようですし。