野原ひろしとホーマー・シンプソン

Webをふらついてたらとても面白い記事を見かけたのでメモ。

『The Life in The Simpsons Is No Longer Attainable』 (『ザ・シンプソンズで描かれるライフスタイルはもはや達成不可能です』)
www.theatlantic.com

長期シリーズ化している『ザ・シンプソンズ』で描かれるシンプソン家の生活水準は、放送開始当時の90年代では妥当だったものの、2020年時点から見ると同じような収入状況では手が届かないものだよねと言う話です。

で、当然これ本邦の『クレヨンしんちゃん』における「ひろしハイスペ過ぎワロス」問題を思い出してしまうわけで。

両者についてどのへんが一致していてどのへんが異なるのかをメモってみます。

注意: 『クレヨンしんちゃん』も『ザ・シンプソンズ』も10年以上まともに見ていないので、見る人が見たらかなり見当違いなことを書いている可能性はあります。

野原ひろしの場合

『90年代初頭の感覚だと「うだつの上がらないサラリーマン」的に描かれていた野原ひろしが現在の基準で見ると勝ち組エリートサラリーマンじゃねーかワロス』的な話はWeb上では頻出していますが、とりあえず目についたものを数件ピックアップしてみます。

rebuild-life.hatenablog.jp

togetter.com

ちなみに、35歳で年収650万円と言う数字の根拠については以下のpixiv大百科記事が参考になりました。公式設定というよりエピソードからの推定値な模様です。また、記事を読んだ限りだと手取りではなく額面(ついでに、このpixiv大百科でも『The Atlantic』記事への言及がありました)。

dic.pixiv.net

さて、ここで現実社会で30代の所得分布が90年代以降にどう変化したのかのデータを見てみます。

第1部 少子化対策の現状(第1章 4): 子ども・子育て本部 - 内閣府

第1-1-18図 30歳代の所得分布

ヒストグラムの階層の切り方がちょっと気になるところですが、野原ひろしが含まれる「500~699万円」階層の比率は1997年には約24%だったのが、2017年には16%程度まで低下しています。これぐらいの給与水準の人が劇的に少なくなり、逆に年収299万円以下の層が増えているのが分かります。

90年代以降に日本全体で給与水準が下がり、野原ひろし的な給与水準が相対的に「勝ち組」化しているのは確かです。一方でネットでよく言われるような庶民には手の届かないライフスタイルという訳でも無いよねという印象。減ったは減ったけどそこそこの割合で居る感じですね。

ホーマー・シンプソンの場合

『The Life in The Simpsons Is No Longer Attainable』をざっくりまとめると

  • 90年代時点でホーマー・シンプソンの年収は約 25,000ドル
  • 当時は、この収入で5人家族を支えて(余裕は無いものの)そこそこ安定した生活を送るという設定には説得力があった
  • この収入をインフレ調整すると2020年時点で42,000 ドル(全米での収入中央値のだいたい真ん中ぐらい)になるはず
  • でも2020年時点だと家や医療費や大学授業料はそれ以上に上がってるし、インフレ調整後の収入で安定した生活とか無理無理絶対無理

と。「仮に(経済成長の結果生じた)インフレを調整した給与であっても、90年代当時と同じ水準の生活は無理」という話です。中流層の生活がここ数十年でだいぶ辛くなったと。

まとめ

90年代から続く長期シリーズである『クレヨンしんちゃん』と『ザ・シンプソンズ』の両方について「もうこの設定で"普通の中流"は無理じゃねーか」的な言説がある。内容としては

  • クレヨンしんちゃん』の野原ひろしの場合、日本で続くデフレにより連載開始当初の「うだつの上がらない普通の会社員」的な設定が相対的に「勝ち組」化したという語られ方(ただ、今でもそういう水準の人はそこそこ居る)
  • ザ・シンプソンズ』のホーマー・シンプソンについては、米国で続くインフレを調整した後の(統計上は「中流」のはずの)収入では生活がきっつい。「中流の没落」的な語られ方(少なくとも、今回取り上げた記事だとそう)。

と。

背景にある経済状況が明確に違っていても、90年代的な「中流」が成り立たなくなっているという点で共通するというのはなかなか闇が深いというか。