「エリア51 世界でもっとも有名な秘密基地の真実」感想

エリア51 世界でもっとも有名な秘密基地の真実 (ヒストリカル・スタディーズ)

エリア51 世界でもっとも有名な秘密基地の真実 (ヒストリカル・スタディーズ)

「NYタイムズ・ベストセラー・リスト」に11週連続でランクインした全米ベストセラーが日本上陸! エリア51の知られざる数々の事実、核や人体実験などアメリカ軍事史の闇に迫る渾身のノンフィクション! ◆「エリア51」はUFO墜落・宇宙人の遺体回収で知られる「ロズウェル事件」の舞台として世界的に有名だが、実際はネヴァダ州の砂漠地帯にある米最高機密の軍事施設である。衛星写真でも隠せないほど広大な基地にもかかわらず、いまも当局は存在を伏せている。 ◆ジャーナリストの著者は、ふとしたきっかけからエリア51で働いていたという人物と知りあい、取材を開始。以後、基地に勤務していた20人近い関係者、プロジェクトに関わった50人以上の科学者、基地近郊の30人を越える居住者などからの証言を得て全容解明に挑戦。その結果、冷戦下の軍事秘史が明らかになった。 ◆貴重なモノクロ写真を約60点収録

学研「ムー」矢追純一UFOスペシャル方面で常に注目を浴びてきた、世界で一番有名な(でも具体的に何をやってるのかさっぱり見えてこない)秘密基地「エリア51」についてのノンフィクション。

まあ、第二次大戦後のドイツから(倫理的にヤバい研究してた人を含め)科学者・技術者をかき集めてきた「ペーパークリップ」作戦、秘密核実験、U-2偵察機の開発、ソ連上空偵察飛行作戦、A-12オックスカート偵察機SR-71ブラックバードのCIA版)開発、偵察機開発を巡る空軍とCIAとの綱引き、核戦争を想定した極秘生体実験、熱核推進ロケット開発、ロズウェル事件の真相等等・・・エリア51とは直接関係無い話も入ってますが、冷戦の「闇」の部分を関係者の豊富な証言を元に再構成してみたという感じの本です。

ただまあ引っかかるのはやはり"ロズウェル事件の真相"(と著者が主張している)話でして。
ソ連ホルテン兄弟の設計にヒントを得て開発した超絶技術の飛行機(空中静止可能で、アメリカ本土まで飛べるほど航続距離が長い。ホルテン兄弟ってそんな超絶技術持ってたっけ?)に生体改造されたパイロットを載せてネバダくんだりまで飛ばしたが結局は墜落し、エリア51に収容されたって話なんですがね・・・著者は「アメリカとしては米本土にソ連機の侵入を許したと認める事が出来なかったし、そもそも自分たちも相当胡散臭いことをしていたから藪蛇にならないように口をつぐんだのだ」と言ってますが、どうにもこうにも、不合理な点を全てソ連スターリンに押し付けただけという感じがします。
普通に考えれば、当時の技術水準を大幅に凌駕しているような貴重な機体を、わざわざ米本土まで飛ばして墜落させたりとかしたらソ連側では政治的大事件になっていたでしょう。それに、後の「スターリン批判」の流れで格好のネタになったはずです。著者的には「いや墜落したことも含めて高度な心理作戦なんだよ!」と主張してますが・・・キバヤシさん乙です。
また、空中で自由に静止出来て、かつソ連領から米本土ネバダまで飛べるような機体を(研究用の一品物であっても)開発できるような技術力があれば、後の実用VTOL機Yak-38フォージャーがなんであんな残念な出来にしかなってないのかとか、合理的に考えると突っ込みどころ満載です。

まあ、"ロズウェル事件の真相"としてセンセーショナルな話を盛り込んでおけば売上的な面で有利だとは思いますが、著者のノンフィクション作家としての誠実さにはかなり疑問を感じます。ほんとうに、他の部分とは違ってこの箇所だけは、その時点での、あるいは現在の技術的・政治的動向とのつながりが全く無いんですよね。


逆にこの点さえ目をつぶれば、当事者の証言による冷戦の裏面史という内容は素晴らしいんですが・・・でも何処まで信用できるのかなあ。
どう考えてもおかしな話を混ぜ込むこと自体が著者による「この本に書かれていることは全て疑え」というメッセージなのだという読み方も可能とは思いますが、その手の陰謀論まっしぐらな読み方はあんまり好きじゃない。