遠藤周作「ブラック大名家に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない」………じゃなくて「反逆」感想

反逆(上) (講談社文庫)

反逆(上) (講談社文庫)

1度でもいい。上さまの……あの顔に……怯えの影を見たい――己れの力に寸分の疑いをもたぬ信長の自信、神をも畏れぬ信長への憎しみ、恐れ、コンプレックス、嫉妬、そして強い執着……村重、光秀、秀吉の心に揺らめく反逆の光を、克明に追う。強き者に翻弄される弱き者たちの論理と心理を描ききった歴史大作。

反逆(下) (講談社文庫)

反逆(下) (講談社文庫)

なんたる上さまの冷酷――命乞いをする幼な子の首を刎ねた信長、秀吉と光秀、2人の心理的競い合いを楽しむ信長。信長を討つことは天の道!光秀は長い間心に沈澱していた反逆の囁きから解き放たれた……。戦いの果てにみた人間の弱さ、悲哀、寂しさを、そして生き残った村重、右近らの落魄の人生を描く。

いやー、面白い面白い。荒木村重明智光秀松永久秀といった一癖も二癖もある織田家家臣が、相互不信と嫉妬、信長への愛憎、「毛利なら、毛利ならきっと何とかしてくれるはず!」という希望的観測、そして何より信長から「使い捨てされる」ことの恐怖に振り回されて反逆にへと至る心理描写が素晴らしい。
また、反逆に至らないまでも腹に一物ある豊臣秀吉や、裏表無くまっすぐ生きようとしても周囲の事情により色々と抱え込んでしまう高山右近、あるいは歴史に名を残すこと無く消えていった人々の悲壮な思い等の描写についても、中々面白く描かれています。

で、上で書いた"「使い捨てされる」ことの恐怖"なんですが、この辺は

信長と消えた家臣たち―失脚・粛清・謀反 (中公新書)

信長と消えた家臣たち―失脚・粛清・謀反 (中公新書)

でも、反乱を誘発した要素の一つではないかとされており、フィクションの"味付け"として読み流すには勿体無い視点だと思います。

で、人材使い捨てといえば昨今のブラック企業問題ですが、いやほんとに当時の人から見たら「ブラック大名家」だったんじゃないですかね織田家って。まあ、他の勢力が今日的な意味で「ホワイト」だったかって言うとかなり微妙だと思いますが。