『日本・韓国・台湾は「核」を持つのか』感想
- 作者: マークフィッツパトリック,Mark Fitzpatrick,秋山勝
- 出版社/メーカー: 草思社
- 発売日: 2016/10/20
- メディア: 単行本
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核実験やミサイルの発射を繰り返す北朝鮮。核を持ち強大な軍事力を背景に領土拡張をやめない中国。これらに隣接する日本、韓国、台湾が実際に「核兵器」を保有する日は来るのか? それは連鎖的な「核ドミノ」をもたらすのか?1 核開発の概況、2歴史的経緯、3開発レベルと対外関係、4核兵器保有の動機、4抑止要因などの視点から、北東アジアにおける「核」のリアルを冷静に分析。中国が暴走し、米国のアジア戦略が揺れる現在の必読書!
刺激的なタイトルとテーマではあるけれど、内容はいたって穏健。
韓国・日本・台湾(核兵器を持ちうる可能性が高い順)についてそれぞれの国情や過去の核兵器開発の経緯をまとめた上で
- 韓国
- 日本
- 台湾
- 現在の監査体制の下では核兵器の極秘開発は無理
- 仮に開発が露見した場合、米国からの(暗黙の)安全保障が切れ、かつ中国からの先制攻撃の口実も与えてしまうので誰得
という感じで、これらの国では核兵器の開発はまず無理だし、そもそもそんなことをやる必然性も薄いという感じでまとまっています。
ただ、これらの結論は前提として
- 核兵器の極秘開発がバレたら国際的に爪弾きとなり、米も本気で制裁してくる
- 米国が東アジアで十分な軍事力を保持し続ける
- 米国は同盟国への軍事的義務を果たすために(必要であれば核兵器の先制使用を含む)軍事力行使を厭わない
というあたりについて、米側も同盟国側も確信していることが大前提になります。
で、ここからが感想の本題。普通だとまあ大統領が変わろうがこの辺の基本ラインが変わることは無いはずですし、この本の本文でも「アメリカはそういう役割を果たし続ける」ことが自明の理として書かれています。しかし、トランプ氏が大統領選で勝利した今、この辺の信頼が(建前的な部分ではなく本音の部分で)大きく削がれる可能性があります*1。
著者による日本語刊行版への序文でこの辺の発言に触れられていますが、短くまとめると「対立候補がクリントン氏だから安心」て感じでトランプ政権の誕生については想定外の様子。なにせ「アメリカが同盟国への軍事的義務を果たさない可能性と、その場合に想定される情勢」について、本書ではほぼ触れられてません。
ほんの数年前までは自明の理だったことがひっくり返るあたり、百年後ぐらいに歴史の教科書で読むとしたら凄い面白い時代だろうなと。
でも、そんな時代に生きたくないよぬ
*1:実際にトランプ政権が誕生した時、この辺の信頼回復に力を注ぐかもしれないし、逆に国際的な安全保障とかかなぐり捨てて米大陸に引きこもるかもしれない。ただ、現時点でどちらに転ぶのか、あるいは他の方向へ進むのか断言できる人は多分居ない