横山信義「宇宙戦争1945」感想

宇宙戦争1945 (朝日ノベルズ)

宇宙戦争1945 (朝日ノベルズ)


一巻、二巻の感想はこちら

「火星人」(という呼称は正確ではなく、実は太陽系外から来ているらしい)がボルネオ島に建造していた「司令部」らしき施設は、太陽系外からやってくる大規模船団(侵略本隊)を減速させるための大出力レーザー発振機であることが判明。これまで地球にやってきていた前衛部隊の「火星人」にすら苦戦しているのに本隊が降下してくれば抵抗は絶望的。侵略本隊の減速が十分でないうちにレーザー発振器を撃破することが叶わねば、地球に明日はない・・・

ということで、タイムリミット付きで決戦を強いられる理由や、ヨーロッパ諸国も自国の防衛より決戦に戦力を割かざるをえない理由が上手いこと説明できていて中々面白いです。
また、戦闘描写もリトヴァクバルクホルン加藤黒江ルーデルがタッグを組んで、恐るべき火星マシンと対決というあたりは上手い。

とは言え、不満な点もいくつか有って。以下は微妙にネタバレが入った小言モード。













本作は十分以上に面白いのは確かなんですが、微妙に気になる点も幾つかあります。
まず仮想戦記的には戦闘描写バリエーションが乏しい点が気になります。対艦巨砲対火星人トライポッドの戦闘描写や、地球側のレシプロ航空機と火星人飛行機械の戦闘描写は基本的に1~2巻とあまり変わらず。むしろ敵の性能が未知だったときと比べてやや単調に成ってる気もします。
鹵獲兵器の使用等でバリエーションに幅を持たせるとか出来そうですが。そういう場合、異星のオーバーテクノロジーに触れて狂喜乱舞する佐野昌一(海野十三、当時逓信省電気試験所勤務)A・C・クラーク(当時英空軍のレーダー技師)といったネタも仕込めたでしょうし。
また、SF的には上で触れたような「火星人」が持つ技術の解析や、あるいは生物としての生態、思考法や文化の差異等について研究を試みるような描写が殆ど無い点が気になります。二巻で敵の前進基地を後略している訳で、その辺の描写が殆ど無いというのは逆に不自然です。こういう部分を描写するのにうってつけの地球統合軍情報局っていう組織を出してるのに、余り活用されてない気が。
また、わざわざ分厚い大気の底にレーザー発振器作っちゃうのもなあ・・・(月の裏側に設置して放熱翼で排熱処理するとか、あるいは水を冷媒に使いたいのなら木星系あたりの氷衛星に設置しとけば良かった訳で)という気もしますが、これは「決戦」という状況を作るために敢えてこういう設定にしたんでしょう。


まあ、ミリタリー描写と(バカ+ハード)SF描写が高いレベルでバランスしてる傑作「降伏の儀式

降伏の儀式〈上〉 (創元推理文庫)

降伏の儀式〈上〉 (創元推理文庫)

降伏の儀式〈下〉 (創元推理文庫)

降伏の儀式〈下〉 (創元推理文庫)

っていう先例と比較してしまってちょっと辛めな評価になっているかもしれません。
いや小言の方が多いですが、面白いのは確かなんですよ。せっかく『「宇宙戦争」と仮想戦記を混ぜてみよう』っていう発展性の有るネタを掴んだのに、調理の仕方が仮想戦記の枠内にとどまってしまっているのが不満なだけで。