P.W.シンガー 、オーガスト・コール 『ゴースト・フリート』感想
『戦争請負会社』『ロボット兵士の戦争』『子ども兵の戦争』といった一連のノンフィクションで、冷戦期の「戦争」観が覆りつつある状況を描いてミリヲタの話題をさらったP.W.シンガー。
そのシンガーが手がけた近未来米中仮想戦記ということで話題になっていた『ゴースト・フリート』が遂に翻訳されたので紹介。
中国軍を駆逐せよ! ゴースト・フリート出撃す(上) (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)
- 作者: P.W.シンガー,オーガスト・コール,伏見威蕃
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中国軍を駆逐せよ! ゴースト・フリート出撃す(下) (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)
- 作者: P.W.シンガー,オーガスト・コール,伏見威蕃
- 出版社/メーカー: 二見書房
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amazonあらすじ。
2026年、中国が太平洋支配に動き、ハワイ制圧!
ロシアと同盟を組んで、太平洋制圧に挑む中国。
嘉手納基地急襲、国防総省サイバー攻撃を経て、オアフ島に上陸!共産党支配からより少数独裁的な「董事会」体制に変わった中国は、2026年、マリアナ海溝近辺でガス田を発見、太平洋支配へと動きだした。
密かに同盟を結ぶロシアが嘉手納基地を急襲したのに続いて、中国はパナマ運河を通行不能にし、真珠湾で米軍艦船を爆破、
太平洋艦隊にも大打撃を与え、オアフ島に上陸してハワイを統治下に置くことに──。
中国のサイバー攻撃によりハイテク機器が使えないアメリカは、ハッキングの影響を受けない、現役を退いた旧い艦艇からなる「幽霊艦隊(ゴースト・フリート)」で
ハワイ奪還を目指すが──。
原題:Ghost Fleet
以下、ネタバレ
読んでる最中の第一印象としては、物凄い既視感。いやなんというか、日本で書かれた仮想戦記(特に近未来日米仮想戦記)とネタが結構被ってる感じがします。パクリとかそういう話ではなく、あくまで雰囲気レベルの話なんですが。
例えば、F-35のマイクロチップ(中国製)に仕込みがしてあって、特定の周波数帯についてはステルス性が無効になってしまうという描写があったりするんですが、このネタ見て反射的に「うわー!『日米決戦2025』だ!懐かしい」と思ったり。
日米決戦2025―そのとき、日本は決断した! (ボムコミックス (39))
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(当時は日本の半導体産業は世界を制覇してて、日米戦のために色々仕組んでたというネタ。90年代生まれの人には全く想像つかない状況な気がするので補足)
あと、仮想戦記というフォーマットで近未来の技術や社会を描くというあたりは、微妙に大石英司『新世紀日米大戦』を思い起こさせたり。
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中国の宇宙ステーションからのレーザー砲撃で軍事衛星を軒並み無効化したりとかも具体的な作品名は出ないものの物凄い既視感が。
あと、『ゴースト・フリート』の紹介で出てくる"現役を退いた旧い艦艇からなる「ゴースト・フリート」が"という文ですが、ちょっとミスリードな部分がありまして、アメリカの反撃艦隊の主力になるのは、現時点で最新鋭なズムウォルト級駆逐艦なんですよ。この作品の設定的には、結局は実用的とみなされずに早期退役した扱い。
で、作中では試作レベルのレールガンを突貫工事で装備して大活躍というか………ノリ的には佐藤大輔『征途』の大和だこれ。18インチの威力に「ふわぁ………凄いよう」ってなっちゃうアレだ。
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と、全般的にトム・クランシーやラリー・ボンド、あるいはジェイムズ・H・コッブあたりのアメリカ産仮想戦記というより、むしろ国内仮想戦記との親和性が強い感じです。これは予想外でした。もちろん、親子の確執と和解のようなハリウッド定番ネタや、「アノニマス」ネタ、占領下ハワイで暗躍するサイコパスな連続殺人鬼といった、如何にもアメリカらしい部分もたくさん有るんですが。
あと、ポーランド海軍が大活躍したりとか宇宙海賊(私掠船)が出てきたりとか色々と変なツボを押されるあたりも気持ちいい。
と、色々な要素がつめ込まれた面白い仮想戦記でオススメ。
………とまとめたい所では有りますが、不満な点もありまして。
まず一つはタイトルについて。原題は"Ghost Fleet"なんですが、何故邦題が『中国軍を駆逐せよ! ゴースト・フリート出撃す』とか装飾過剰になっちゃうのかなーというかカウンターに持っていくのがエロ本並に恥ずかしい。まあ、マーケティング的に敢えてベタベタにしてるんだとは思いますが。
もう一つ、一部の中国側登場人物があまりにステレオタイプ過ぎるというか、内省するときにいちいち孫子を引用するような人民解放軍の軍人って余りに非現実的な気が。「異文化」を強調するためにあえてベタに描いてるとは思いますが、でもやっぱりこー、映画「パール・ハーバー」の連合艦隊謎会議的なヘンテコ感。