「中国はドイツ帝国の轍を踏むか?」について雑感

「歴史のライム」 中国はドイツ帝国の轍を踏むか? - リアリズムと防衛を学ぶ 「歴史のライム」 中国はドイツ帝国の轍を踏むか? - リアリズムと防衛を学ぶ

 戦略的位置についての比較の次に、HolmesとYoshiharaは艦隊について比べています。ここで明らかになるのは、中国海軍の艦隊建設はあきらかにドイツ帝国海軍のそれとは違っている、ということです。
 ドイツ帝国海軍は、ティルピッツ提督の指導のもと、イギリスに対して対称な質の戦力をそろえました。イギリスの主力は戦艦隊なので、こちらも戦艦をそろえる、というわけです。そして北海でイギリス戦艦隊と「決戦」をやって勝つ、というつもりでした。しかし戦力の質が対称であれば、あとは量が多い、少ないが勝敗を決めます。ドイツの経済力ではイギリスと同量の戦艦をそろえることはできず、建艦競争をやっても最終的なイギリス有利は変わりませんでした。

この辺の分析については、5〜10年のタイムスパンで見れば同意。
ただし、以下のような言説を見ると20〜30年後はどうなるか・・・

たとえば、「タイムリーな中国の空母建造人民解放軍 戴旭大佐への『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』紙によるインタビュー

戴旭(以下A) 空母はもはや兵器という概念を越えて、すでにわれわれの民族の心の中に融け込んでいるものである。

今日、中国にとって海洋の意味はほとんどすでにその命のツナとなっているが、中国はそれを守る力を擁するに至っていない。空母はこのような背景の下で現代の中国人の軍事的トーテムとなっているのである。記号の意味について言えば、今日、中国が空母を保有することはかつて原子爆弾を保有することと同じで、いずれも大国として必ず保有しなければならないものである。

詳しい内容はリンク先を読んでもらうとして、米国型の外洋の制海覇権を握るための戦力(それを象徴する存在としての空母)を持つことが国家的・民族的使命であると述べられている。こういう意見が”当たり前のもの”として育った世代が自らの非対称な戦力に満足できるかというと疑問。結局のところ、対称な戦力の整備に乗り出すのは時間の問題では無いかと思われる。
また、日本や米国と同様に、中国にとっても中東の石油やアフリカの希少金属を輸入するための海上交通網は生命線だが、制海権を妨害することに特化した「非対称な戦力」のままでは自国の海上交通網を保護することができない。
この点、戦後日本はうまいこと米軍の海上覇権にフリーライドする形で、世界規模で貿易できるだけの海上交通網の安全を手に入れたわけだが、中国はこの道を取るかどうか・・・ってのは過去に書いたのでこちらを参照。

いずれにせよ、20〜30年の長期的なタイムスパンで見ると、中国海軍は米軍と対称な戦力の整備(そして世界規模での海上交通網の保護)を目指してくるのは確実かと。そのころまでに、そんな金食い虫を支えるだけの経済力を持つことができれば・・・・だけど。


どうでもいいけど、"People's Liberation Army Navy"(人民解放軍海軍の英語表記)っていまだに違和感が。