「STAP細胞に群がった悪いヤツら 」感想(あんまりお勧めできないけど目を通して良いと思う)
私が気になっている科学系の新刊書籍(教科書ではない) - アレ待チろまん
でスルーされてた方のSTAP本。
- 作者: 小畑峰太郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2014/11/27
- メディア: 単行本
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いわゆる「科学コミュニティ」とか「科学クラスタ」の外からSTAP細胞騒動についてどう見えてるのかについて興味を持ったので購入。
まずは良かった点。
なんのかんの言って関係する人物相関図や騒動に至るまでの顛末についてはよくまとまってる。また、市川家國教授(理研「研究不正再発防止のための改革委員会」委員)や八代嘉美准教授(京都大学iPS細胞研究所)といった関係者への独自取材も結構ある。
じゃあ良い本なのかというとちょっとというかかなり微妙で、大雑把に言って
- STAP論文そのものの捏造疑惑についての追求(この点は結構良くまとまってる。数ページにわたって延々とオボポエム*1文体が続いたりして辟易するけど。)
- セルシード社によるインサイダー取引疑惑についての追求
- 再生医療について巨大な「産官学利権構造」が成立しているという話についての追求
といった記事をまとめた本なのですが、それぞれのテーマについて相互に噛み合っていない印象。
例えばインサイダー取引疑惑が事実だとしたらそれはそれで大問題ではあるんですが、でもSTAP論文の捏造疑惑とはあまり絡まない(仮に内容的に一点の曇りも無い論文だったとしても、インサイダー取引疑惑が問題で有ることには変わり無い)。
再生医療の利権構造についても同様です。この本にあるような数十億円規模の大規模利権構造が成立していたとしたら、根拠の薄いSTAP論文をネタにして世間の注目を浴びる大規模PRを打つような賭けをするよりも、あんまり目立たない程度に利権構造に浸かってた方が合理的なはず。
今回の件では、純粋な科学研究の側から見ても本書の言う「利権構造」側から見ても、(小保方氏だけではなく)理研CDB関係者の不合理な行動が目立ちますが、なぜこんな不合理な行動を取っているのか、あるいは取らざるを得ないのかについての説明なり追求なりは成されていません。
てかそれぞれのテーマについて独立して結論らしきものが出てるのですが、一つの本として通して読んだ場合、ラストは一見綺麗に締めてるけどよく考えたらそれぞれのストーリーが全然まとまって無いじゃないかっていう印象が残ります。
あと、匿名の「幹細胞研究者」による
「(略)バイオ分野は小保方論文と同じく再現できない論文が多く、米国政府は今春、不採算分野と断じてバイオ関係の研究費を廃止しました。このため米国では研究所が次々閉鎖しています。(後略)」
みたいな、「それどこ情報ー?どこ情報よー?」とドヤ顔で突っ込みたくなる証言も。
こういう「匿名関係者」とか「消息筋」の使い方って信頼性を思いっきり下げるからやめた方が良いと思うんだけどなー。
とはいえ、理系クラスタなり研究者コミュニティの人は目を通しとくべきじゃないかと思う
いや、理系クラスタなり研究者コミュニティの人はこの本読んで「はいはいワロスワロス」的な感想持つと想うんですよ。特に産官学利権構造とかの辺り。
本書によると再生医療研究ってのは、官僚が旗を振り、研究機関のトップ研究者がほしいままに研究資金を分配し、その資金に山師的なバイオベンチャーが群がってWin-Win-Winな関係を築いてるという山吹色のお菓子が乱れ飛ぶステキ業界らしいですよ奥さん。さあ!そこのうだつの上がらない生物系ポスドクもバイオベンチャーで一旗揚げようず!(死亡フラグ)。
いやまあ、確かに再生医療研究ってそこそこ大きな予算が付いて、かつ山師多めな印象はあり、またこれまでも度々問題視されてきていましたが(この辺は別に日本だけに限らず、今回の件で言うとバカンティとか)、理系クラスタなり研究者コミュニティの視点だとこういうどぎついイメージって出て来ないと思うんですよね。
ただ、このようなどぎついイメージがウケる界隈ってのはあり、いったんそういうイメージが社会的に定着してしまうと、科学研究が一昔前のゼネコン業界のように社会的・政治的なスケープゴートとしてフルボッコになる可能性も無い訳ではない。そう考えると「はいはいワロスワロス」で済ませるのは危険だと思うし、この本に目を通しておくべきだと思う。お勧めしないけど。
2014/12/21追記
本書が「陰謀論」の本かというとちょっと違ってて、陰謀論というか科学や技術を専門で追っかけてる訳ではないライターが「再生医療業界の闇を暴く」というフレームでSTAP騒動を追ってみたという感じ。科学ライター系の人が書く記事とは根本でフレームがずれてる。例えば臨床系研究者を持ち上げて基礎系・工学系研究者をDisったりするような、「素晴らしい人・叩くべき人」って感じの表現で読者を煽る技巧が散りばめられていたりとか。
例としてp140-141
今回、STAP事件に連座する人々、岡野、大和、若山はたとえ大学教授であっても「医学博士」ではない。理工系、もしくは工学系だ。笹井と丹波、小島は医学博士であっても山中や高橋とは異なり臨床医出身ではない「生物学の一研究者」なのである。本来、彼らは地味な研究職に従事する人々だ。誰一人、巨額な予算を引っ張ってきたり、ベンチャー企業の役員に収まったりするような柄ではない
すげー。科学ライター系の人には絶対書けない文章だよねこれ。凄いけどしびれないし憧れないけど。
でもやっぱ、「科学クラスタ」の外では(ストレートに表現する人は少ないと思うけど)こういう視点持ってる人は多いと思う。
あと、笹井氏の評価を巡る内容についても書かれているけど、故人の評価について現時点で触れるのは抵抗があるので上のポストでは触れてません。
*1:2ch生物板で流れていた怪情報。STAP論文が本格的に炎上する前から投稿されている点や踏み込んだ内容から関係者によるものでは無いかとの噂も・・・ まとめは http://www.poverty.jeez.jp/ura/img/kenmou01241.txt で読める