- 作者: クセノポン,Ξενθφων,松平千秋
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2002/07/09
- メディア: 文庫
- 購入: 5人 クリック: 9回
- この商品を含むブログ (3件) を見る
前401年、ペルシアのキュロス王子は兄の王位を奪うべく長駆内陸に進攻するが、バビロンを目前にして戦死、敵中にとり残されたギリシア人傭兵1万数千の6000キロに及ぶ脱出行が始まる。従軍した著者クセノポンの見事な采配により、雪深いアルメニア山中の難行軍など幾多の苦難を乗り越え、ギリシア兵は故国をめざす…。
ペルシア帝国の王権争いに巻き込まれたギリシア人傭兵集団。会戦には勝利したものの、雇用主(キュロス王子)が戦死した結果、ペルシア帝国のまっただ中(今でいうイラクのバグダートあたり)で孤立してしまう。それまで肩を並べて戦っていたキュロス王子配下のペルシア人たちは全員兄王側に付き、正に孤立無援状態。さらに兄王へ今後の処遇を交渉しに行った高級指揮官たちは処刑され、軍隊組織の「頭」となる部分は壊滅。後は叛乱に加担した見せしめとして部隊全員処刑されるか、奴隷として売り飛ばされるか・・・
こういう「どうあがいても絶望」状態に陥り、「もうどうにでもな~れ」モードに陥りそうになった傭兵集団、そのとき若手士官クセノポンが残った幹部たちへ演説をぶちかます、「みんなで一緒にギリシャへ帰ろう」と。そして敵中で孤立無援の一万数千人(+荷物運び、従軍商人、娼婦等の非戦闘員)による決死の大脱出行が始まるが・・・・
ということで、気になった部分についてメモ。
賃金闘争
キュロス王子生存時、「こんな東まで行軍するなんて聞いてない」「まさか叛乱起こすんじゃ無かろうな」的なストや賃上げ要求が度々なされています。傭兵雇うのも結構大変だよなあ。
行軍している限り軍隊は飢えない
継続的な補給がなければ軍隊が活動できなくなったのは、弾薬の消費量が劇的に増加した第一次大戦以降であり、それ以前については軍事活動のネックと成る要素は弾薬ではなく食料だったため、現地収奪である程度補えたというのはクレファルト「補給戦」の受け売り。
- 作者: マーチン・ファンクレフェルト,Martin van Creveld,佐藤佐三郎
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2006/05
- メディア: 文庫
- 購入: 21人 クリック: 220回
- この商品を含むブログ (75件) を見る
ただし、収奪で軍隊を養えるかどうかについては
- 常に移動し続ける(一箇所に止まってしまうと収奪で食料を得続けることは出来ず、継続的な補給が必要)
- 近くに敵が居ない(収奪のために戦力を分散することが出来ない)
という条件を満たす必要があります。ただこの辺の事情は兄王側も同じで、傭兵部隊の追跡を断念してる原因なんだろうなあ。
地元住人との対立
で、ペルシャ帝国軍との継続的な戦闘を切り抜けつつ現在で言うアルメニア・グルジア方面へと侵入した傭兵部隊一行ですが、ここで地元住人との対立が激化します。まあ地元民からすれば一万人規模の略奪部隊な訳で、そりゃ必死で抵抗しますわな。他にも"対立している部族の方へ進路を取ってくれるのであれば安全を保証するし道案内を出す"みたいな申し出もあったりと、色々と生臭い。
で、あれこれとあってやっとのことで黒海沿岸へ出ます。この辺、ペルシア帝国領ではあるんですがギリシャ人植民地が点在しており、やっとこさ一息つける・・・・って逗留したら食料が足りなくなるわ、ギリシャ人植民地側から物凄い迷惑扱いされるわと色々厄介事は続いていきます。まあ・・・数千~一万人分の食料を供給し続けるとかギリシャ人植民地側から見ると迷惑きわまりないわけで、かといって実力で出ていってもらうには相手が余りに強すぎる。。。
やっとこビザンチオンあたりまで帰ってこれて、あとボスポラス海峡渡るだけ・・・っていうところで渡してもらえなかったりとか、制御されてない軍事勢力ってことで基本的に何処へ言っても厄介者扱い。
アテナイ人とスパルタ人の対立
進路上にある丘を、敵に知られず如何に確保するかという話になり、じゃあ闇に紛れて盗もうじゃないかということになって、その夜襲部隊を誰が指揮するかという話に成った時のエピソード。
スパルタ人指揮官に対してクセノポン曰く
「スパルタでは君のような上流階級の生まれの人間には、すでに子供の時から盗みの稽古に励み、法が禁じておらぬものならどんなものでも盗むのは恥辱ではなく、手柄になると私は聞いている。なるべく巧みに盗み、人に見つからぬよう努力せよという趣旨から、君の国では盗みをして捕まった場合にはムチで打たれる法律があるそうな(後略)」
それに答えてスパルタ人の指揮官曰く
「私の方でも、君たちアテナイ人は公金を盗むことにかけては名人だと聞いている。盗むには大変な危険が伴うにも拘わらずだ。しかも、所謂最高級の人間が一番凄腕だそうだな、君たちの国ではその最高級の人物なるものが政治を行うに相相応しいと考えられているとすればだが。(後略)」
まあ、アテナイがスパルタに敗れたペロポネソス戦争の終結からたった数年後だしなあ・・しかし、こういう当てこすりに留まらない喧嘩って一般兵レベルだと相当発生してたんじゃなかろうか。