チャールス・ラム「雷撃」感想
- 作者: チャールス・ラム,宇田道夫,光藤亘
- 出版社/メーカー: 朝日ソノラマ
- 発売日: 1982/07
- メディア: 文庫
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第二次大戦中の英海軍「フェアリー ソードフィッシュ」雷撃機パイロットの手記です。コレがまた熱い。
「ソードフィッシュ」雷撃機とは
ミリヲタでないと馴染みの薄い機体なので、補足説明。
いかにも第一次大戦っぽい複葉機ですが、これでも1945年まで第一線で活躍し続け、第二次大戦の英海軍を代表する「名機」です。その余りの融通性の高さ(魚雷・爆弾・爆雷・追加燃料タンク、大戦中盤以降は対水上レーダーやロケット弾まで搭載可能に)から、「ストリングバッグ」(買い物カゴ)というアダ名までもらっています。
まあ、性能的にはあまり良い所が無いのも事実ですし、搭乗員からも時代遅れと見なされていたのも確かですが・・・この辺は後述。
戦歴が凄すぎる
この手記では主に1939年の開戦から1940年に北アフリカでヴィシー・フランス軍の捕虜となるまでが描かれています。この一年ちょっとの間で著者が参加・経験した主な作戦行動や出来事を列挙してみると・・・・
- 空母「カレイジャス」での大西洋での対潜哨戒
- Uボートにより空母「カレイジャス」撃沈(何と冒頭40p目で母艦喪失)
- 英本土からドイツ沿岸への夜間機雷敷設
- オランダへ降下した独軍落下傘部隊への対地攻撃
- ダンケルク撤退戦での魚雷艇狩り
- 空母「イラストリアス」から地中海での船団護衛
- 同じく空母「イラストリアス」からタラント奇襲作戦
- ドイツ爆撃隊により空母「イラストリアス」大破
- ギリシアでの対地支援作戦
- アルバニア(イタリア軍占領下)領内の秘密基地からのイタリア船団襲撃作戦
- 北アフリカでの対地支援作戦
- ヴィシーフランス占領地への要人・工作員輸送作戦
この他にも自衛的な空対空戦闘も行なっており、飛行機に可能な任務はほぼ全て網羅されているような感じです。万能すぎる。
欧州でのニッチにすっぽりはまった「ソードフィッシュ」
このように名機として評価され、様々な任務へ投入されて成功を収めていることも確かですが、カタログ上の性能は決してほめられたモノでは無い・・・・というか、むしろ時代遅れも甚だしいポンコツです。
搭乗員からも
「ソードフィッシュ」の搭乗員の間では、言い古されたこんな冗談話がある。
敵の対空機関砲の照準器には”ストリングバッグ”の巡航速度である九十ノットなどという遅いスピードの目盛りはついていないんだ。だから「ソードフィッシュ」の場合は後方を狙って、弾丸の破片を当てるしか無い。
もちろんこれは冗談だが、その中には見逃せない真実のかけらがあった。ガタピシで、まるでおばあちゃんのような飛行機だったから、敵の戦闘機乗りが優秀で、しかもこちらの古い複葉機が保つすばらしい運動性を十分心得てさえいれば、たちまち餌食にされてしまうのだった。
といういろんな意味で散々な評価でした。(一方で「簡素で効率的」「運動性能を活かせば落とされることはない」という評価も受けていますが)
で、何故このような身も蓋もない散々な評価と「名機」という評価が両立するかというと・・・「雷撃」を読む限り「頑強な抵抗が予想される目標については夜間奇襲に徹し、明るいうちの強襲は可能な限り避けていた」ということかと。実際「夜が明けてからの雷撃を命令された飛行隊長が、命令を無視するわけにはいかず、かといって飛行隊の全滅も避けたいので単機で出撃」といったエピソードが紹介されています。あと、欧州では艦載機でしか行えないような遠洋での航空作戦というと基本的には大西洋での対潜作戦であり、この種の任務では潜水艦から航空機への抵抗はあまり考慮する必要がありません(潜水艦側からすると、さっさと潜って逃げたほうが得)。
このような、欧州での空母戦のニッチに上手いことすっぽりと適合した機体であるゆえに「ソードフィッシュ」が名機として評価されていると言うことが「雷撃」で実感できます。復刊されるべき。