反「冷たい方程式」としての映画「ゼロ・グラビティ」
見に行ってきたので感想。
いやー面白い面白い。徹底した無重力表現とか、作用反作用の法則の見せ方とか、真空暴露した皮膚の表現とか面白いなー。まあ、ガチガチに設定にこだわってるわけでもなくて、細かい部分を見ると色々と物語上必要な省略があったりしますが(例えば他人のサポート無しに宇宙服を着用してそのまま船外活動ってかなり厳しくないか?とか、ラストの展開は流石にご都合主義的じゃね?とか)、まあ全体的に見ると娯楽作品としても、SF作品としても傑作だと思う。谷甲州とか好きな人は必見ですよ。ああ、あと3D上映で見るべし。DVD/BDレンタルで済ませようとしたら損すること確実。
で、ネタバレに成らない程度にもうちょっと突っ込んだ話をします。取り敢えずストーリーとしては「トラブルに巻き込まれた主人公があらゆる手を尽くして生還を目指す」っていうだけなんですわ正直言って。そういうシンプルなストーリーの何が面白いかって言うと、主人公の生存に係る要素が全て作用反作用の法則のような、極シンプルな物理法則に従っているという点です。
序盤のシャトルから放り出されてグルグル回る場面、ISSとの相対速度を合わせるためにある方法で運動量を切り離す場面、エアロックに入ろうと四苦八苦する場面・・・これ以降の展開を上げていくと流石にネタバレが酷いので伏せますが、とにかく主人公が巻き込まれるトラブルや悪戦苦闘は、ほとんどが高校一年で習う力学レベルの物理法則に従ってます。で、「そりゃ無茶だろ常識的に」っていう部分は有るにせよ、基本的にはその物理法則を上手いこと利用しながら、針の穴より小さい生存への可能性を突き詰めていく訳です。
話は変わりますが、SF小説で「冷たい方程式」って短編がありまして、
- 作者: トム・ゴドウィン・他,伊藤 典夫
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2011/11/10
- メディア: 文庫
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要は
「夢も希望も魔法も努力も人情も根性も愛も関係無い。密航者を宇宙船から蹴り出さないと、物理法則上どうあがいても全員死亡する。ということで密航者だけ死んでくれ」
って話です。
たとえ密航者が十代の少女で、密航する止むに止まれぬ事情があり、関係者全員が彼女に同情していたとしても、冷徹な物理法則をひっくり返す事は出来ません。最初の1ページ目から結果は決まっているのです。
人間的な葛藤とは無関係に冷徹な物理法則は冷徹な結末を導きますが、だからといって人間的な葛藤が否定されるべきでも、すべきでも無い。「人間的な感情が物理法則とどう向き合っていくべきか」という、SFでしか描くことの出来ないテーマに切り込んだ、至高のSF作品の一つです。
さて、ここで「ゼロ・グラビティ」に話を戻します。登場人物が冷徹な物理法則に縛られているという点では「冷たい方程式」と一緒ですが、方向性は正反対です。
「冷たい方程式」は「物理法則により予め定まっていた悲劇」の話でしたが、「ゼロ・グラビティ」は「物理法則上の可能性が僅かであっても残っているならば、最後の最後まで絶望せずに足掻き続けよ」という話。
どっちが上か下かという話ではなく、こういう対照的な作品の比較って面白いなー。
ちなみに、「冷たい方程式」の作者トム・ゴドウィンは「ゼロ・グラビティ」的な方向性の作品を書くことが多かったとのこと。
- 作者: 山本弘
- 出版社/メーカー: 洋泉社
- 発売日: 2004/07
- メディア: 単行本
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