A・E・ラングスフォード 「国王陛下の巡洋艦」感想

国王陛下の巡洋艦 (新戦史シリーズ)

国王陛下の巡洋艦 (新戦史シリーズ)

古本市で体験手記と思って買ったらフィクションだったのでハズレを引いたかと思っていましたが、実際に読んでみると予想以上に良作だったのでメモ。まあ正直言って、第一印象は(タイトル的にも)「女王陛下のユリシーズ号」フォロワー本かという印象でした。

女王陛下のユリシーズ号 (ハヤカワ文庫 NV (7))

女王陛下のユリシーズ号 (ハヤカワ文庫 NV (7))

実際、特に中盤までは絶望的な護衛船団作戦という状況や、損害を重ねていく中で精神的にギリギリまで追い詰められる艦長・・・とストーリーの個々の要素はかなり似通っています。
ただし、「女王陛下のユリシーズ号」は「ギリギリまで追い詰められた挙句に精神的に屈して死ぬか、最後まで屈せずに戦って死ぬか」という極限状態の悲劇を扱った作品ですが、「国王陛下の巡洋艦」が描いている主題はそれとは異なり、戦記小説としてはかなり異色な

「戦場TPSDのために一度は屈してしまった艦長が、精神科医や家族の絆に支えられて精神の安定を取り戻す」

というものです。艦長の心理描写が(特に精神病棟への入院後)上手く、戦記小説と言うよりもむしろ一般小説として読みがいのある本でした。いや戦記小説から(押し付けがましくない、自然な)癒しを得るっていうのは事前に予測していなかっただけに意表を突かれました。
この本には残念ながら訳者後書きがなく、また"A.E. Langsford MHS Marathon"あたりのキーワードで検索してみても著者の情報があまり見つからないため、この本が発表当時にどのような評価を受けていたのかという点や、著者の来歴について気にかかります。