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論文の査読って何だ(研究者以外の人向け)

このへんの話。

Open ブログ: ◆ STAP細胞の掲載拒否は妥当だったか? Open ブログ: ◆ STAP細胞の掲載拒否は妥当だったか?

何か論点がどんどん拡散していってる(査読システムにより掲載が遅れた話に、理研で独自の論文誌を持つべきって話と商業ジャーナル高すぎ搾取問題についての話等がどんどん追加されていってて)ので、取り敢えず商業論文誌の査読システムについて自分用にまとめてみた。
あと、この問題を論じる上での前提知識にも成るかと思うので公開してみる。

自分の立ち位置について

こういう方面について書くと、現役研究者なり学生なり科学ジャーナリストっぽい人なりと間違われるかもしれないので念の為最初に書いておきますが、自分は研究者じゃ無いです。世に『研究者の卵』っていう表現が有るけど、言うならば『研究者の無精卵』っていうか、博士後期課程単位取得退学者ですわ。一応生物系専攻だったんですが、今働いてる仕事には専攻は全く関係してません。

研究の世界について(ちょっと古いものの)ある程度の基礎知識は有り、研究社会の中の人では無いって立ち位置。

そもそも論文を発表するってどういうことなの?

科学者が研究成果を発表する手段には、大雑把に言うと「学会発表」と「論文投稿」の2つがあります。発表ボリュームに制約がある学会発表はどちらかと言うと軽めな報告みたいな感じであり、研究者の主戦場は論文投稿の方になります。
また、論文誌と言ってもピンきりで、お金さえ払えばほぼノーチェックで掲載される雑誌も有れば、今回話題になっている「Nature」誌のように「Natureに論文が掲載された」っていうだけでもステータスになるようなクオリティの高い論文だけを掲載する(はずだと言われている)雑誌も有ります。
生物系だと、「Cell」「Nature」「Science」あたりが凄い雑誌の代表格な感じですかね。少年コミックでいうところの「ジャンプ」「マガジン」「サンデー」みたいな感じで、作品が載ったっていう時点で作者が同業者から「Sugeeeeeeeeeeee!」って言われるレベル。

また、雑誌の「格付け」として「インパクトファクター」(参照: インパクトファクター - Wikipedia )っていう指標が有って、要はその雑誌に乗った論文がどれだけ引用されているかって指標です。インパクトファクターが高いということは、より注目されてる雑誌であるということで、そういう雑誌に論文を乗せることが出来た研究者は評価が高くなるという仕組みです(この辺はいろいろ問題が有るんですが本題から外れるので省略)。

研究者が職を探したり研究予算を確保するときに、どんな雑誌にどんな論文が掲載されてきたのかという履歴が、業績として見なされ、大きくモノを言うっていう仕組みで研究業界は動いてます。

あとまあ、書いた論文をノーチェックで掲載できるhttp://arxiv.org/みたいな「プレプリントサーバ」という公開方法もあります(参照: 「arXiv - Wikipedia」)が、業績としてカウントされるかどうかは微妙な気が。

そもそも「査読」って何?

論文誌に論文を投稿してから掲載されるまでの間に、このようなステップが入ります。

  1. ある科学者が雑誌に論文を投稿する
  2. 編集者は論文を受け取り(Received)雑誌に掲載出来そうな内容か判断(例えば、土木工学の雑誌にSTAP細胞の論文を投稿したとしたら、この時点でお断りされるはず)
  3. 論文の内容に不備がある場合、レフェリーが問題点をまとめて編集者へ報告(「論旨が破綻してる」とか「この実験じゃあんたの主張の裏付けになんねーよ」とか「英語もまともに書けない研究者ってwwwwww」とか)
  4. 編集者はレフェリーの指摘を投稿者へ戻す(Revised)。場合によっては掲載お断り(Rejected)されることも。
  5. 投稿者は不備な点を修正し(あるいは、「いや不備じゃない、アンタの目が節穴なんだ!」と論破したり説得したりして)再投稿し、再度内容チェックを依頼する
  6. 4~6のステップを繰り返し、最終的にレフェリーからOkが出れば採用(Accepted)、論文掲載(Published)

このように、論文の内容について他の科学者から突っ込みを受け、突っ込みの余地が無くなるまで修正するというシステムが「査読」です。公正かつ遠慮無く突っ込みを行うため、投稿者にはレフェリーの名は知らされず、レフェリーにも投稿者の名は知らされません。


図にするとこんな感じ。

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松村秀「論文捏造」p137より引用。

論文捏造 (中公新書ラクレ)

論文捏造 (中公新書ラクレ)

(今回の趣旨からは外れますが、この本は研究に興味がある人は必読ですよ!)

今回のSTAP細胞のケース

【新型万能細胞】「誰も信じてくれなかった」…強い信念で常識打ち破る(1/2ページ) - MSN産経westによると

 弱酸性の溶液に浸すだけのごく簡単な手法で万能細胞が作れるという研究成果は、極めて常識破りで革新的な報告だった。それ故に、昨年春、世界的に権威ある英科学誌ネイチャーに投稿した際は、「過去何百年の生物細胞学の歴史を愚弄(ぐろう)している」と酷評され、掲載を却下された。

とあるんですが、「掲載を却下」された訳ではなく、レフェリーからの指摘を戻された(reviseされた)だけですわな。論文投稿ってある意味この段階からが本番で、レフェリーからの突っ込みに対して如何に論旨の弱さを補強し、説得力のある反論をするかという壮絶なバトルが始まる訳です。このへんのバトルがどんだけの長さに成るかは状況次第です。例えば、時間のかかる追加実験が必要になったりといった場合には相当長引きます。
今回の論文は(Openブログさんが冒頭に書かれている通り)2013年3月10日に論文を受け付けてから最終的にアクセプトされたのが12月となっています。個人的には、9ヶ月というのはかなり遅い方ではあるにせよ、アレコレ言われるほどではないだろうという印象。

ちなみに、差し戻し後に再投稿するまで半年かかったケース。
Nature 著者インタビュー:上谷 大介 氏 | Nature | Nature Publishing Group

こういうバトル抜きで研究成果を世に出したいなら、プレプリントサーバへ投稿するなり、部分的な内容をもっとハードルが低い雑誌へ投稿するなり、学会発表するなりすれば良いわけで。Nature側に何か問題が有ったとか、査読システムの問題とか言うケースには当てはまらないんじゃないかと。


査読システムの問題点

上で紹介した松村秀「論文捏造」にかかれていますが、このシステムはあくまで「突っ込み」であって、論文の内容が正しいかどうかを担保するものではありません。例えば、最初からレフェリーをだます気で虚偽の実験結果を作っているケースを防ぐことは出来ません。
また、レフェリーと投稿者はお互いに相手を特定できない仕組みとなっていますが、専門分野がそんなに大きくない場合には論文の内容から投稿者が誰なのか何となく分かってしまうことも有るとか無いとか。
さらに、論文を差し戻している間に、レフェリーが論文の内容を元に実験を行って他の場所で発表したりとか言う腹黒い話もあれこれ有るとか無いとか。
あと、今回のSTAP細胞の件とは逆に、レフェリーが突っ込みを行ったにも関わらず、雑誌の編集者が論文をそのまま掲載してしまうというケースもあるとのこと(「論文捏造」でこのようなケースについて実際の証言が取り上げられています)。

ついでに、レフェリー側の負担が高くなりすぎ、システムとして限界が来ているとの話も。
<記事紹介> 論文査読制度はもはや限界か? Angewandte Chemieの編集委員長François Diederich教授が改善策を提起(Editorial・無料公開) | ワイリー・サイエンスカフェ


ただまあ、STAP細胞の件とは今のところ別の話ですわ。