久住昌之・加藤総夫「脳天観光」を改めて読みなおす

脳天観光 (扶桑社文庫)

脳天観光 (扶桑社文庫)

夢って何なのか?記憶ってどうやって残されているのか?感動って?ココロって科学的に言うとどういうものなの?人間に関する謎は、元をたどっていけば、みんな脳に関することだ。だけど、今まで何を読んでも脳が理解できなかったり、『賢くなれる脳科学の本』の類を読んでもあまり効果がなかったと感じたりで、脳って難しくてわかんない、とあきらめてるアナタ!科学者は一体何が楽しくて研究なんて訳分からないことをしているの?と思っているキミ。そんなみんなにオススメの、観光気分で脳がわかる1冊。

孤独のグルメ」原作者として今をときめく久住昌之氏と、現役バリバリ研究者な加藤総夫氏(現在は慈恵会医科大学教授)がタッグを組んで書いた脳研究入門書。
元々は1990年「月刊SPA!」連載だったんですが、1992年に単行本化、1996年に大幅な改訂・加筆訂正の上で文庫化されています。

と、まずべた褒めの前に予め難点を揚げておくと、最大の難点はやっぱり古いこと。日進月歩な勢いで研究が進んでいる分野な訳で、やっぱ18年前の内容で新しいトピックが含まれてないというのは辛いところです。


ただ、古いという欠点はあるものの、高校生~大学教養課程ぐらい、あるいはあんまり科学とか普段は縁のない社会人向けの入門書としては今でも最強クラスなんじゃないかなーと思います。

なんつーか、研究者と文化人との対談本って色々ありますが、パターンとして「功績を積み上げてきたエライ教授」と「功績を積み上げてきたエライ文化人」的な感じがあります。一冊例を挙げると

とか。まあエライ人とエライ人が対談してっていうのはそれはそれで面白い物ですが、やっぱり退屈というか正座して傾聴的なフォーマルさがあってどうにも「入門書」として食いつきが良いかどうかっていうと微妙な部分があります。

で、本書なんですが、加藤総夫氏はここの略歴を見る限り、1990年の雑誌連載当時は助手。その後はフランスで研究生活を送った後、文庫版出版時には慈恵会医科大学講師です。つまり、バリバリ研究して成果を出し、キャリアを積み上げていく真っ最中な若手研究者なんですな。「地位を固めた後のエライ人」ではなく「油の乗った現役バリバリな研究者」が、久住昌之氏の絶妙にボケの入った質問にノリノリで答えていくわけで、面白くない訳が無い。

また、扱っている内容も、神経細胞の基本構造とか、神経細胞内での情報伝達の仕組みとか、神経回路網が形成される基本的仕組みとか、あるいは脳内での情報処理(立体視や「漫画を読むときにバックグラウンドで処理されてる情報」みたいな)とかそういった、当時としても最新の知見では無いけれど、でも脳研究とは縁のない普通の人にとっても興味深いトピックがてんこ盛りです。

いやほんと、どれだけ面白いかって言うと、文庫版出版等時に高校生だった自分の生涯所得を数百万円単位で削っていった(工学部へ入ったもののやっぱりバイオ系へ転科したけど、研究者に成れず退学して一般企業に入ったって事だ書かせんな恥ずかしいってアレコレの一因になった)ぐらい破壊力がある。

ということで、この本はもっと評価されても良いと思います。
久住昌之人気に火が着いてる今、再度加筆訂正+最新トピックの補足を入れて再刊したら売れると思うんだけどなあ。

この辺は他にも、「アシモフの科学エッセイ」シリーズとか

斉田博「おはなし天文学」シリーズとか

おはなし天文学〈1〉

おはなし天文学〈1〉


内容的にはかなり古いものの、トピックごとに現在の専門家から見た補足説明や解説を入れれば、今でも十分以上に面白い入門書は色々あるんですが、科学入門書の「アップデート版」って出版社的には難しいんですかねえ。