神林長平「敵は海賊・海賊の敵」感想

敵は海賊・海賊の敵 (ハヤカワ文庫JA)

敵は海賊・海賊の敵 (ハヤカワ文庫JA)

わたしはラジェンドラ。
広域宇宙警察・海賊課に所属する宇宙フリゲート艦だ。
同僚の一級刑事ラテルとアプロのおかげで、わたしの対人知性体の性能は日増しに向上している。
しかし、今回の事件でわたしは負けそうになった。
あの海賊・冥が、神の座を叩きつぶす暴挙に出たからだ。
あれはいったいなんだったのか、まったく理解不能だった。
しかし、わたしの対人意識でもって再構成してみれば、理解できる可能性はある――

前作の「正義の眼」は、哲学寄りと言うかより深みを増した反面、「敵は海賊」シリーズらしからぬノリの悪さが目立ちましたが、今作は如何にも「敵は海賊」シリーズらしいノリの「敵は海賊」。
とはいえ、ノリが軽いだけなのかというとそういう心配は全くなく、ヒトに関係無くそこに有る「リアル」と、ヒトそれぞれが持つ「物語」「願望」「虚構」のせめぎ合いというテーマがしっかり織り込まれていて濃厚な神林SFになっています。

正直、この辺は「正義の眼」だけではなく最近の雪風シリーズや「いま集合的無意識を、」では、エンターテイメント要素を脇に置いてストレートにメインテーマを語るような印象がありましたが、本作のように娯楽SF小説としての楽しさとテーマの追求をバランス良く描く方向に期待します。

いま集合的無意識を、 (ハヤカワ文庫JA)

いま集合的無意識を、 (ハヤカワ文庫JA)


しかしこー、ある登場人物に対する海賊たちの目線があれこれ厳しいことを言いつつもヌクモリティというか、世なれない孫を見守るおじいちゃんというか・・・・「七胴落とし」の頃のような『汚い大人に成りたく無い』的なナイーブさで行動する若者に振り回される海賊って図も見たかった気がする。

七胴落とし (ハヤカワ文庫 JA 167)

七胴落とし (ハヤカワ文庫 JA 167)

って本来その辺のナイーブさはラテルが担うべきだったんだよな。