パイド・パイパー

パイド・パイパー - 自由への越境 (創元推理文庫)

パイド・パイパー - 自由への越境 (創元推理文庫)

時は1940年夏。現役を退いた老弁護士ジョン・ハワードは、傷心を癒すためにジュラの山村へ釣竿一本下げて出かけた。しかし、懸念されていた戦局がにわかに緊張度を高め、突然の帰国を余儀なくされたばかりか、ジェネーブの国際連盟に勤めるイギリス人の子供ふたりを預かって帰る破目に陥った。だが、ハワードの運命はそれだけにとどまらなかった。途中で世話になったホテルのメイドの姪や二親を失った孤児など、次々と同行者の数が増えていく。戦果の中を、ひたすらイギリスを目指す老人と子供たち。

(あらすじより引用)

渚にて」で有名なネビル・シェードの代表作の一つ。これまで読む機会が無かったが、帰省のお供に読んでみたので感想を書いてみる。
とにかくシチュエーションが上手い。1940年のドイツの対仏侵攻について予備知識があればあるほど、主人公一行の行動(特に1940年夏にイギリスから南仏へ旅行にでかけたりとか、英仏連合軍の主力が壊滅するまでゆっくり滞在してたりとか、パリ陥落まで途中のホテルでゆっくりしてたりとか)が死亡フラグ立てまくりにしか見えないけれど、同時代人から見ればそりゃ英仏連合軍が呆気無く崩壊するとは思えないよなあ。特に主人公は(年齢的に最前線には出ていないだろうけど)第一次大戦をリアルタイムで見てただろうし。
そういう絶望的な状況下でも主人公は常に善意を失わず、「子どもを連れていってくれ」と頼まれるたびにOKを出すので、敵の占領地域で人目を忍んで行動すしなければならないという状況では「お荷物」でしか無い同行者の子供たちがどんどん増えていき・・・・英国人だとバレれば即タイーホな状況で5才と8才の子どもに英語を喋らないようにさせるとか、どんな罰ゲームかと。(個人的には正月に甥姪の面倒みるだけでもキツイ。無理だ)
まあ、第一章で主人公が既に英本土に帰っていることがはっきりと書かれているので、どのみち無事に帰れることは分かってはいるけれど、こういう絶望的条件下で一体どうやってイギリスへ戻ることが出来るのかという部分は実際読んでのお楽しみということで。
あと、気になったのはドイツ軍の書かれ方。元々原著は1942年の第二次大戦真っ只中に出版されているが、ドイツ軍の描写が異常なほどにフェア。占領下のフランス人から反感を持たれているものの、秩序が崩壊したフランスの都市で治安の維持をちゃんとやってるし、難民に対する炊き出しや一時宿泊所の設営もやってるし、病気の孤児を野戦病院で診療したりもしている。なんというか、戦時中の作品としては驚くほど”鬼畜”的な描写が無い。(もちろんユダヤ人強制連行に触れられているし、ドイツ兵がフランスの商店で不当に安く買い叩く描写があったりと、無条件に甘いわけではない)
あとまあ、ひとりだけいけ好かないゲシュタポが登場するけど、彼には彼なりの事情があるし、そもそも主人公達の行動が常識的に見て不審過ぎるのは確かなわけで。
それにしても、如何にもスタジオジブリあたりでアニメ化しそうなストーリーだが(美しい自然+元気いっぱいな幼女+戦車の組み合わだし、「ハンスの帰還」と同じ雰囲気を感じる)、アニメ化の話とか無かったんだろうか。

最後に、後書きのネビル・シュートの経歴紹介でエンジニアとしてのシュートについて述べられているけど、そこはパンジャンドラムについて書かないと駄目だろ常識的に。

参照:nevilshute.org