ワイオミング生まれの宇宙飛行士

ワイオミング生まれの宇宙飛行士 宇宙開発SF傑作選 (SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー)

ワイオミング生まれの宇宙飛行士 宇宙開発SF傑作選 (SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー)

宇宙開発SF傑作編とのことで、収録作品は以下のとおり

  • アンディ・ダンカン「主任設計者」
  • ウィリアム・バートン「サターン時代」
  • A・C・クラーク&スティーブン・バクスター「電送連続体」
  • ジェイムズ・ラヴグローヴ「月を僕のポケットに」
  • スティーブン・バクスター「月その六」
  • エリック・チョイ「献身」
  • アダム=トロイ・カストロ&ジェリイ・オルション「ワイオミング生まれの宇宙飛行士」


全体的に(特にアポロ計画を扱った「サターン時代」、「月を僕のポケットに」、「月その六」については)”60年代、宇宙開発が輝いていた時代への郷愁”を扱った作品が多い気が強い気がするなあ。ギブスンの「ガーンズバック連続体」(「クローム襲撃 (ハヤカワ文庫SF)」収録)のように”ありえたかもしれない昨日の未来”への思いを突き放すような感じではなく、むしろ過ぎ去った”ありえたかもしれない昨日の未来”への郷愁や憧れの方が強いような。
アポロ以外だと、「主任設計者」も旧ソ連の宇宙開発とセルゲイ・コロリョフへの思いをソ連崩壊後にふり返るという構成だし。
「電送連続体」については郷愁の元イメージが英国人にとっての”我らが最良の時”であるバトル・オブ・ブリテンであるところがユニーク。”ありえたかもしれない昨日の未来”への郷愁という傾向を皮肉っているように感じるのは気のせいだろうか?(気のせいだと思う)
一方で、過去の宇宙計画への”郷愁”ではなく”敬意”を扱った「献身」や、宇宙への思いをストレートに描いた「ワイオミング生まれの宇宙飛行士」は文句無しに傑作。特に「ワイオミング生まれの宇宙飛行士」は、最初に粗筋を見たときにはティプトリーJr的な、”社会からの疎外感/社会の外(宇宙)にあるはずの故郷”みたいなテーマを持ってくるかと思ったが、良い意味で裏切られた。特に最後の一行は泣ける。