天冥の標 3 アウレーリア一統

天冥の標 3 アウレーリア一統 (ハヤカワ文庫 JA)

天冥の標 3 アウレーリア一統 (ハヤカワ文庫 JA)

西暦2310年、小惑星帯を中心に太陽系内に広がった人類のなかでも、ノイジーラント 大主教国は肉体改造により真空に適応した《酸素いらず》の国だった。
海賊狩りの任 にあたる強襲砲艦エスレルの艦長サー・アダムス・アウレーリアは、小惑星エウレカ に暮らす救世群の人々と出会う。
伝説の動力炉ドロテアに繋がる報告書を奪われたと いう彼らの依頼で、アダムスらは海賊の行方を追うことになるが……。シリーズ第3 巻。

小川一水の大河大風呂敷SFシリーズ第三巻。
イイヨイイヨ〜〜。久々にSFっぽいSFがきたよ。

ちゃんと理屈が立っている宇宙戦闘の描写がたまらない。太陽系内でニュートン力学の制約をちゃんと考慮している戦闘というと、谷甲州「航空宇宙軍史」シリーズの描写が(国内・海外含めて)随一だと個人的には思っているけれど、それとタメを張れるぐらい良い感じ。
「航空宇宙軍史」シリーズ(外惑星動乱編)の場合、物語の舞台となるのは地球軌道近傍〜木星系・土星系という広大な領域。ほとんどの艦艇は0.1G程度の比較的低い加速度しか出せないため、十数日間かけて数百km/sぐらいの速度を積み上げていく。
積み上げられた速度と比較すると加速度が非常に低いため、急な軌道変更が出来ない。そのため、一旦位置とベクトルを掴まれてしまうと確実に撃破されてしまうことから、「索敵情報のつかみ合い・騙し合い」がメインとなる潜水艦同士の戦闘をイメージさせる描写となっていた。
「天冥の標 3」では、小惑星帯がメインの舞台となり、積み上げられる速度は数十km/s程度で、加速度はより大きい。そして主な戦闘手法は・・・・まさかの「接舷白兵戦闘」。強襲砲艦の外見(過剰な装飾や、ケーブル類)も合わさって帆船時代の接舷戦闘なイメージです。それに艦長は白タイツ履いてるし。

もちろん戦闘だけの話ではなく、いろいろなSFアイデアがてんこ盛り。「天冥の標 1」との連続性がほのかに見えてきたり、神林長平敵は海賊」シリーズと通じる問いかけが有ったり、腐女子向け描写もあったりと、面白い切り取り方はいくらでもありそうだけど、列挙していくときりがないのでこのへんで。

・・・・これってサブジャンル的には「ワイドスクリーンバロック」ってやつなのか?他には「キャッチワールド (ハヤカワ文庫 SF 431)」ぐらいしか読んだこと無いけど。

あと、「Slowlife in Starship」(「フリーランチの時代 (ハヤカワ文庫JA)」収録)と同じ登場人物(人じゃないけど)がいるけど、設定が矛盾していることが判明したので直接関連はなさそう。