- 作者: 阿川弘之
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 1990/10
- メディア: 文庫
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文壇一の海軍マニアにして元海軍大尉(プロパーな兵学校出身士官ではなく、予備学生出身)の阿川弘之氏による海軍エッセイ集。それにしても、阿川氏は基本的には「大正・昭和初頭の海軍が持っていたリベラルな気風(と、戦中の海軍に残っていたリベラルさの名残)」を愛している人だと思うんだが、結果的に「海軍善玉論」を広めた人として位置づけられている気がする。
とりあえず、読んでて気になった部分をメモしとく。
「暗い波濤」がらみ
「暗い波濤〈上巻〉 (1974年)」で出てきた暗号学校の教官(小峰少尉、通称「アバ」教官)のモデルは、服部正也氏(「ルワンダ中央銀行総裁日記 (中公新書)」の著者)らしい。意外なところに意外な接点があるもんだな。びっくりした。
また、艦爆乗りの翁中尉のモデルの方は、(「暗い波濤」では明確に書かれていないが)戦争を生き残り、戦後は町長になっていたとのこと。また、作中で書かれていた特攻拒否についても実話だそうだ。
それにしても、そのときの啖呵が
「・・・(略)大和の特攻出撃かてそうや。帝国海軍の栄光を後世に残すため、一切衆上を道づれにしてええとは、仏法の教えにかいてありません。通常攻撃で行かせてください。ちゃんとした戦果挙げて、五割連れて戻って来ます」
予備学生出身者でここまで堂々と啖呵を切れる(そして上官から認めてもらえる)というのは、やはりよほど評価されていたんだろうなあ。
その他雑感
いかに陸軍が嫌いだったかについてのエッセイで、「父よあなたは強かった」の歌詞についてこんなエピソードが紹介されていた。
この歌をアメリカ軍の将校に翻訳で聞かせると、意味がどうしても理解できないというそうだ。
炎天下、敵軍の遺棄死体が未処理で、第一線の兵士が、腐りかけた死骸と一緒に寝ている。喉がかわくが飲むものが無いから、クリークの泥水をすすっている。腹が減って、レーションの代わりにその辺の草をかじっている(略)
「これは、反戦グループが陸軍当局に対するいやがらせで作った反戦歌か」
「ちがうちがう、軍が前線でどんなに苦労をしているかを表現して、これに感謝し。かつ国民の士気を昂揚するために作られた大ヒット曲だ」
「補給が上手く行っていないことを歌うと、何故日本人の士気は昂揚するのか」
・・・・・・「奴隷の鎖自慢」と同じようなメンタリティを感じる。良かれ悪しかれ、これは一種の伝統といっていいんじゃなかろうか。
調書を提出する際、「特技」の項にみんな相当なハッタリを書いている。−−−私も書いた。
「英語 可成り自由
ドイツ語 右同
シナ語 右同
英文タイプライター熟練」嘘ですよ。まるまるの嘘では無いけれど、程度に関しては嘘である。
・・・・・・履歴書ではったりをかますのも、どうやら当時から変わらない伝統のようだ。