グルー「滞日十年」感想

滞日十年 上 (ちくま学芸文庫)

滞日十年 上 (ちくま学芸文庫)

1932(昭和7)年、グルーはアメリカの駐日特命全権大使として赴任する。このころの日本は、世相は暗く、満州事変五・一五事件国際連盟脱退と、ひたすら戦争への道を歩んでいるかのようであった。知日派として知られたグルーは、日本の多くの人々と交わり、日米関係の悪化を食い止めるべく奔走する。しかしその甲斐なく、1941(昭和16)年12月、日米はついに開戦へと至ってしまう。本書は、その間の経緯を、当事者のみが語りえる迫真の描写によって、克明に記録した昭和史の一級史料。上巻は、着任早々の天皇への謁見、そして二・二六事件、盧溝橋事件を経て、1939年5月15日までの情勢を収録。

滞日十年 下 (ちくま学芸文庫)

滞日十年 下 (ちくま学芸文庫)

1932(昭和7)年、グルーはアメリカの駐日特命全権大使として赴任する。このころの日本は、世相は暗く、満州事変五・一五事件国際連盟脱退と、ひたすら戦争への道を歩んでいるかのようであった。知日派として知られたグルーは、日本の多くの人々と交わり、日米関係の悪化を食い止めるべく奔走する。しかしその甲斐なく、1941(昭和16)年12月、日米はついに開戦へと至ってしまう。本書は、その間の経緯を、当事者のみが語りえる迫真の描写によって、克明に記録した昭和史の一級史料。下巻は、日米交渉行き詰まり、ついに日本の真珠湾奇襲の日をむかえ、翌年帰国するまでを収録。

アメリカ人外交官から見て当時の右傾化していく日本がどのように写っていたのか確認するという意味でも良し。(後世の視点から見ると)炸裂することが確実な「真珠湾」という時限爆弾を回避するために足掻く姿にスリルを味わうも良し。日常エピソードや当時から続く"Engrish"の伝統を見て笑うも良し。あるいはHoI2愛好家の方なら、政策スライダがジリジリと全体主義へ移行していく様を見るも良しと、いろいろと視点を変えて読める面白い本です。

個人的には、1944年、つまり米国の勝利が見えて来ているものの未だに戦争まっただ中の状況での出版であるにも関わらず、昭和天皇や東條首相に対する人格非難がほぼ全くないという点が非常に興味深いです。
例えば東条内閣成立時に

東條首相が今までの軍人首相と違って退役ではなく、現役の大将であることは留意すべき重要事である。(略)ゆえに東條将軍が陸軍における現役階級を保持している結果、部内の極端分子に従来以上の統制を及ぼす立場にあると期待することは不合理ではない。

のように、現代の昭和史研究のスタンダードに近い分析をしていたり。
また、昭和天皇や皇室関係の方々については一貫して軍部の極端派と対立し、押しとどめる存在として描かれています。
この辺はグルー氏の卓見(つまりは、当時の米国政府が日本国内の政局について大筋で正しい情報を得ていた)という見方も可能ではありますが、一方で(非常に天邪鬼な見方ではありますが)戦後の対米戦争開戦への経緯についての歴史研究が、米国務省と日本政府にとって都合の良い方向性へ誘導されていた結果なのでは無いのか・・・・という疑念すら感じてしまいます。

まあ妄想は置いておくとしても、米国人と言うよりむしろ英国人的なユーモアと皮肉の効いた日記は単に流し読みしているだけでも充分面白いです。オススメ。