「東京もチェルノブイリ第三区分入りが濃厚に」はどの程度確かなのか(改訂版)

前置き

同じテーマでいったんエントリを書いて、その後即効で消してしまいましたが、放っておくには気になるので、改めて書き直しました。当初の内容は「WSPEEDI結果は参考程度に」ぐらいの内容でしたが、筋が通っていない内容だったため、今回は千葉での土壌汚染測定結果について焦点を当てて書き直しています。
また、以下の考察は専門家でも何でもない一般人による個人的なものです。信用するのは専門家へ相談してからで遅くないと思います。

本題

中鬼と大鬼のふたりごと 文科省ようやくWSPEEDI予測値(広域汚染状況)の一部を公表:東京もチェルノブイリ第三区分入りが濃厚に 中鬼と大鬼のふたりごと 文科省ようやくWSPEEDI予測値(広域汚染状況)の一部を公表:東京もチェルノブイリ第三区分入りが濃厚に

Togetter - 「文科省ようやくWSPEEDI予測値(広域汚染状況)の一部を公表:東京もチェルノブイリ第三区分入りが濃厚に」 Togetter - 「文科省ようやくWSPEEDI予測値(広域汚染状況)の一部を公表:東京もチェルノブイリ第三区分入りが濃厚に」

で、こういうショッキングなタイトルですが、内容の妥当性はどうでしょうか・・・という内容を改めて仕切りなおし。

「中鬼と大鬼のふたりごと」の論理は、以下の部分に集約されると思います。

ただし千葉市については日本分析センターの土壌調査(調査地点は4月14日)で、小石混じりの土の表面から、ヨウ素131が48000Bq/m2、セシウム134が53000Bq/m2、セシウム137が53000Bq/m2検出されている(3月26日から4月14日の分が含まれてしまっているが各種データを見れば3月25日までの分が圧倒的な割合を占めることは確実)。東京の大部分が千葉市よりも1ランク高濃度であるという新たに分かった事実と、この千葉市の53000Bq/m2という実測値を合わせて考えると、東京の値が53000Bq/m2を下回ることはほとんど考えられない

"東京の大部分が千葉市よりも1ランク高濃度であるという新たに分かった事実"という部分に対して「WSPPEDIのシミュレーション結果より文部科学省の出してる実測データのほうを見ろ」といってもあまり意味がなく、むしろ千葉市での土壌汚染実測結果について調べてみたほうが良い気がします。

日本分析センターの土壌調査結果を見てみる

日本分析センター敷地内における放射性核種の蓄積

4/14の時点で、日本分析センター敷地内で採取された土壌について、ヨウ素131、セシウム137,134の汚染状況が分析されています。
このデータを見てみると、まず深さごと(0-1, 1-2, 2-5cm)の各核種の分布が示されているところで、ヨウ素とは異なり、セシウムが比較的表層に留まっていることが見て取れます。
次に、汚染濃度(Bq/m2)について。
現在Web上にアップされているデータは、5/16に改定されたものということで、グラフの各要素について具体的な数値は示されていません。そのため、小石混じりの土の表面から"セシウム137が53000Bq/m2検出されている"という部分については確認できませんが、グラフを見る限り、桁的にはだいたい合ってそうです。

放射性降下物濃度の実測値と付きあわせてみる

これらの放射性核種がどこから来たのかというと、当たり前ですが福島第一原発事故により飛んできているもののはずです。
さて、(宮城県・福島県を除く)全国の降下物濃度については文部科学省からデータが公開されています。

参照:サイトマップ:文部科学省

ここではとりあえず、首都圏に含まれる以下の都県について、放射性降下物に含まれるセシウム137濃度を3/20-3/24の間で累計した値を見てみます。(首都圏への放射性降下物はこの期間に集中しており、それ以降の降雨でも降下していますが、3/20-3/24の間で降った量とくらべると無視可能なレベルです。また、他の放射性核種については「第三区分入り」というのがセシウム137濃度を基準としているため、とりあえず無視します)。

参考

(元のMBq/km2をBq/m2であらわしています)

まあ、広範囲に見ると10^2〜10^3 Bq/m2のオーダー。千葉・埼玉・東京都だけをみても10^3 Bq/m2のオーダーです。
セシウム137が53000Bq/m2(10^4 Bq/m2オーダー)という濃度で検出さたとして、それは広範囲に広がっているというよりも、何らかの形で局所的に濃縮された(吹き溜まり・雨水のたまり場など)結果と見るほうが妥当だと思います。逆に言うと、近接する他の場所ではその分濃度が低いということです。

参考として挙げた茨城県のデータ(10^4 Bq/m2オーダー)であれば、同程度の土壌汚染が広範囲に広まっているといえないことも無いと思いますが・・・この点については、降下したセシウムがどの程度の割合で土壌へ残るのかという点が未だに不明確ですし、今後の実測値(面積・深さがはっきりしないBq/kgではなく、日本分析センターの分析結果のような面積・深さを考慮した土壌汚染分析)を待つべきかと。少なくとも専門外の人間が即座に断定できるようなデータではありません。

千葉の土壌分析結果について話を戻すと、可能性としては

  • 放射性降下物の検出システムの不備により、実際の降下量を表せていない
  • 局所的に高濃度のセシウム137を含む雨雲が通過したため、日本分析センター敷地全体がホットスポット化している。そもそも文科省のデータは観測地点が少なすぎてこういう地点をカバー出来ていない

という可能性もあります。正直なところ、前者の可能性については判断材料を持っていません。専門家の方にお任せします。以下、後者の可能性について考えてみます。

同じ敷地内の放射性降下物濃度の実測値と付きあわせてみる

日本分析センター敷地内で放射性降下物の検出を行なっているデータがあるので、そちらを見てみましょう。

放射能測定結果について

日本分析センター敷地内に降ったセシウム137の濃度としては、3/14〜4/14までを総計して4*10^3 Bq/m2程度です。文科省の千葉県(市原市)で測定されたデータよりもやや多いですが、同程度の桁です。埼玉・東京都についての文科省のデータと比較しても飛び抜けて多い値とは言えません。

やはり、降ったセシウム137の量が多いというよりも、降った後で何らかの形で濃縮されたと考えるのが自然な気がします。仮に濃縮されたとしたならば、濃縮ポイント以外ではセシウム137濃度は4*10^3 Bq/m2よりかなり低くなっているはずです。恐らく上空からみると、斑にホットスポットが存在するような感じになっているかと。
広範囲にわたって、セシウム137が53000Bq/m2という濃度で存在するとは考えにくいです。

憶測

日本分析センター敷地のGoogleMapを見ると、敷地のほとんどは建物と舗装で覆われ、土壌が露出している部分は意外に少ない事がわかります。


大きな地図で見る

コンクリート・アスファルトで固められた部分から、土壌が露出している部分へ雨水が流れた結果として、土壌へ汚染が集中したというシナリオも仮定できますが

  • コンクリート・アスファルトがセシウムをどの程度吸着するかどうか分からない
  • 土壌露出部分と周辺の舗装部分の高さの差が分からない。土壌露出部分が周囲より高い場合、このシナリオは成り立たない
  • そもそも土壌露出部分へ流れる雨水より、直接下水へ流れる雨水のほうが量は多そう

ということで、このシナリオの妥当性については判断できません。一応、「憶測」としてメモします。(日本分析センターの見解が気になるところですが、FAQページにも今のところ特に言及が無い様なので・・・)

結論

セシウム137の降下量を見ると

東京の大部分が千葉市よりも1ランク高濃度であるという新たに分かった事実と、この千葉市の53000Bq/m2という実測値を合わせて考えると、東京の値が53000Bq/m2を下回ることはほとんど考えられない

(強調部は引用者による。また、上記の値はセシウム137の濃度を示す。)

という結論は出せないと思います。

千葉市の日本分析センター敷地内で、土壌からセシウム137が53000(=5*10^4) Bq/m2検出されたという点は事実ですが、同敷地内に降ったセシウム137の濃度は累計で4*10^3 Bq/m2程度であるため、降下後に何らかの形で濃縮されたものと考えるのが妥当だと思います。濃縮されたということは、つまりはその分だけ他の場所では濃度が低下しているということで、広範囲にわたってこのような強度の汚染が広がっているとは考えにくいです。

ただし、ホットスポットが形成されることは実測データから確認されました。今後も関東圏で農作物の汚染が検出される可能性は十分あり得ますし、今後、都内で同様のホットスポットが見つかって祭りになる可能性も有るでしょう。このようなホットスポットの特定を行うべきとは思いますが、現時点では公的機関のリソースは福島へ集中すべきだと思います。

また、下記の記事では、地形の影響で吹き溜まりが発生し、局所的にセシウム137の降下量自体が多かったのではないかという可能性についても言及されています。

福島第1原発:茶葉から放射性物質 「なぜ神奈川で…」 - 毎日jp(毎日新聞) 福島第1原発:茶葉から放射性物質 「なぜ神奈川で…」 - 毎日jp(毎日新聞)

農地については早急な土壌検査(上でも書いたように、面積と深さを考慮したもの)を早めに行うべきじゃ無いかなと。

最後に

酒気帯びでブログを書くのは恥をかくから止めたほうがいい。衝動的に書いて衝動的に消した後で、さらに同じテーマについて書き直すことになる。