「学校での放射線量の目安」問題について考えを整理してみた

書き始めてからうだうだと考えを練ってる内に内閣官房参与が抗議辞任したりと状況が動いたが、とりあえず考えを整理して見たメモ。
ICRP基準を基にしているので全般的に「安心側」に立ってるはずだが、やっぱ20mSv/yは無茶という結論。

追記。「学校での放射線量の目安」問題について考えを整理してみた 続き - ka-ka_xyzの日記も参照。

20mSv/yという数字について

20mSv/yという数値の根拠については下記を参照。
【解説・被ばく限度は1ミリ?20ミリ?100ミリ?】 | NHK「かぶん」ブログ:NHK

今回の学校での放射線量の目安は、ICRPの「復旧期」の指標のうち、上限にあたる年間20ミリシーベルトを採用し、多くてもこれを超えないようにと設定されました。しかし「なぜ上限の20ミリ?」または「緊急時なのか?復旧期なのか?」といった疑問に対して、政府は丁寧な説明をしているのか、指摘しなければなりません。

不安を取り除くために十分な説明をするとともに、政府には、この目安を使っている間もできる限り年間1ミリシーベルトに収まることを目指して、引き続き被ばく量を減らす努力を続けることが求められます。

一応、ICRPの指標には(上限一杯ながらも)従っています。ICRPついては「原発推進派だから信用できない」って意見もあるものの、多数派見解ってことである程度信頼できると判断しています。

次に、健康被害については下記を参照。
放射線の確定的影響と確率的影響 (09-02-03-05) - ATOMICA -

確率的影響では、100mSv程度以上で有意増加が確認されるヒト発がん(固形がんと白血病)と実験動物で有意増加が確認される遺伝的影響(先天異常)などが考慮される。

100mGy程度以下の一回被ばく(数日又は数週間の早期被ばく)又は毎年繰り返し被ばくでは、臨床的に認められる症状は現れない

ICRPとしては、100mSv(≒100mGy)程度以上から有意に危険が増加するということです(ただし、年齢については考慮されていない)。まあ、今回問題となっているのはそいうギリギリの数値では無いですが、明確に「危険である」あるいは「安全である」と断言できる状況でも無いと思います。

「安全側」寄った説明としては下記を参照。

超訳・放射能汚染1〜疫学が示す「年間100mSv未満は大丈夫」 | FOOCOM.NET 超訳・放射能汚染1〜疫学が示す「年間100mSv未満は大丈夫」 | FOOCOM.NET

超訳・放射能汚染2〜毒性学の建前は「極力低減」 | FOOCOM.NET 超訳・放射能汚染2〜毒性学の建前は「極力低減」 | FOOCOM.NET
(ただ、ここで使われている「建前」という表現には非常に違和感がある。元生物屋としては、vitroで検証されているもののvivoで検証されていない現象について「建前」「本音」という表現を使うのは適切ではないと思う。後で何か書くかも)

「危険側」に寄った説明も探してみたものの、ノイズが大杉でよく分からない。保留。

(下記追記)

「危険側」に寄った説明としては下記を参照。

米国科学アカデミー研究審議会の「電離放射線の影響に関する委員会:Committee on the Biological Effects of Ionizing Radiation (BEIR)」による報告から、まとめ。
Health Risks from Exposure to Low Levels of Ionizing Radiation: BEIR VII Phase 2
100mGy以下の被曝であっても、(in vitroの研究モデルでも)発ガン率が閾値の無い線形比例仮説に従うという内容です。

日本語での要約および解説。
低線量放射線被曝リスクをめぐる最近の動向──BEIR VII報告を中心として - 市民研アーカイブス 低線量放射線被曝リスクをめぐる最近の動向──BEIR VII報告を中心として - 市民研アーカイブス

具体的には、例えば、100ミリシーベルト(職業上の被曝の5年間での線量限度とされている値)の被曝でも約1パーセントの人が放射線によるがん(固形がんや白血病)になる、つまり、他の原因でがんになる人(100人中42人と推定)に加えて、さらに100人に1人が放射線被曝が原因でがんになる、という。

以下の内容では一応ICRP説を採用しますが、上のような評価があることも忘れずに。

(追記は以上)

じゃあ問題点は何?

「覚悟完了」を求められる被曝量を子どもに押し付けて良いのか?

健康被害については統計的に無視できる程度とは言え、20mSv/y以下という数字は平常時の職業被曝限度と同じ(正確には職業被曝限度は100mSv/5yで年間50mSvまで許してるんで、厳密に言うと違いますが・・・)です。
職業被曝の場合には潜在的リスクと利益を秤にかけた、ある意味「覚悟完了」な状況での線量限度であり、ルクセルバッチや線量計等で被曝線量を管理しているはずです。同じ制限値を、適切な線量管理システムもない状態で子どもに押し付けるというのは無茶過ぎと思います。

放射線防護の3つの基本原則

国際放射線防護委員会(ICRP)2007年勧告(Pub.103)の国内制度等への取入れに係る審議状況について

「放射線防護の3つの基本原則」として、下記のように書かれています。

・正当化の原則
放射線被ばくの状況を変化させるようなあらゆる決定は、害よりも便益が大となるべきである。
・防護の最適化の原則
被ばくの生じる可能性、被ばくする人の数及び彼らの個人線量の大きさは、すべての経済的及び社会的要因を考慮に入れながら、合理的に達成できる限り低く保つべきである。
・線量限度の適用の原則
患者の医療被ばく以外の、計画被ばく状況における規制された線源のいかなる個人の総線量は、委員会が特定する適切な限度を超えるべきではない。

(強調は引用者による)

要は、「危険がないなら100mSvに達しなければOK」って訳ではなく「明確に危険な線量でない場合でも、経済的・社会的要因を考えながらなるべく被曝線量を抑えるべきだ」って原則です。
ところで、今後一年間での積算被曝量予想地図を見ると分かるように、今回の基準が問題と成るような地域(避難区域外で、かつ年間被曝量が20mSvに達しそうな地域)は結構限定されています。

U.S. Department of Energy Releases Radiation Monitoring Data from Fukushima Area (4/18)
p3 "First Year Dose Estimate"(注:100mrem = 1mSvなので、2000mrem = 20mSv)


【遅いPC向け】福島県内 4,400 箇所の放射線量を可視化して、ついでに年間積算被曝量も推定してみた - 宇宙線実験の覚え書き


文部省 福島第1及び第2原子力発電所周辺の放射線量等分布マップの「積算線量推定マップ(平成24 年3 月11 日までの積算線量)」


例えば5mSv/y程度の制限限度でも、福島県外への疎開といった大規模かつ児童への負担を強いるような形ではなく、低汚染地区に仮校舎を立てたり校区の振り分けしたりといった形で対応出来そうな感じです。現状では児童に対して20mSv/yという限界基準を採用しなければいけないような状況では無いと思います。(これ以上の大規模な放射性物質の大気への放出が発生しない限り・・・という条件付きでは有りますが。)

追記:上記の取り消し線部については「「学校での放射線量の目安」問題について考えを整理してみた 続き - ka-ka_xyzの日記」を参照。単純な校区振り分けでは対応出来なさそう。