中田整一「トレイシー 日本兵捕虜秘密尋問所」感想

トレイシー 日本兵捕虜秘密尋問所 (講談社文庫)

面白かったのでメモ。

得体の知れない敵国、日本を丸裸にするため、アメリカはすさまじい執念とエネルギーを費やし極秘に捕虜尋問センターを準備した。暗号名はトレイシー。日本人の国民性、心理、戦術、思想、都市の詳細などについて捕虜たちが提供した情報が、やがて日本の命運に大きくかかわってくる。講談社ノンフィクション賞受賞作。

米国が第二次大戦において行なっていた情報収集活動を扱った本としては「日本兵捕虜は何をしゃべったか」が有名です。
日本兵捕虜は何をしゃべったか (文春新書)

「トレイシー 日本兵捕虜秘密尋問所」では捕虜尋問センターで行われていた尋問手法や尋問体制についてさらに突っ込んで描かれています。

日本語の壁

捕虜を尋問するにはまず日本語を使えこなせないと行けないわけですが・・・開戦前は

米国海軍では両国の外国語能力を比較して、実用的な日本語を使えるアメリカ人一人に対して、英語を使える日本人は、十万人いると想定していた。

という状況。この辺、今でも英語圏だと「英語話せて当たり前」的な感覚がありますが、当時からあまり変わっていない気がする。そしてやっぱり

当時、アメリカ人の認識では、日本語は世界で最も難しい言語であり、一部では日本語を教えたり学んだりすることを、秘儀的なカルトのようにみる風潮があったという。

「日本語は難しい」という印象も当時から変わらず。"秘儀的なカルト"あたりは、日本人の日本語教師が何か変な感じの「日本語道」的な教え方してたんじゃないかなとも思います。まあ米軍は大戦中盤以降の情報戦で圧倒的な優位を獲得していく訳ですが、開戦前~初期の頃はこういう状態だったとのこと。ちなみに1947年には連合国全体で7502名の日本語要員が居たそうで。

幻のベルリン強襲作戦

捕虜の尋問や戦場に残された日本語書類の解析に日系二世兵士が果たした役割(とともに、2つの祖国に挟まれた苦悩)はよく知られていますが、本書で初めて知ったのが・・・連合国によるベルリン空襲に連動して日系二世兵士をベルリンへ降下させ、日本大使館から重要書類を奪取するという殴りこみ計画です。結局はドイツが無条件降伏したことで計画が実行されることはありませんでしたが、二世兵士がこの件に関係して欧州へと移送されていたとのことです。

零戦操縦士捕虜の謎

1943年4月9日に「い号作戦」に参加していた空母「隼鷹」航空隊搭乗員の零戦操縦士(と米軍がみなしていた)、大谷誠中尉(と調書にあるものの、偽名。米軍に対して偽名を名乗ることは日本兵捕虜の間では珍しくなかった)についての記述が中々面白いです。大谷中尉は海軍兵学校出身の正規士官でかつ零戦操縦士という立場から、米軍にとって非常に重要な情報源と見なされていました。どれぐらい重要視されていたかというと、空母「エンタープライズ」艦内を通訳同伴で見学させたりといった"異例の"扱いを受けるぐらいです。(実際に米軍空母を見せることで日米空母を比較するコメントを引き出し、日本空母についての情報を得ようという試み)

ただ、気になったのは作者後書きでの大谷氏について語られた下記の箇所。

戦後、自らの戦争体験などをもとに直木賞作家として多くの戦記文学で名を成したひとである。その著作の中でも捕虜となり、真珠湾に停泊した米国空母「エンタープライズ」の中での体験をさり気なく発表している。

後書き中では具体的な人名を出していませんが、海軍で艦載機操縦士、かつ「い号作戦」で捕虜になった人物というと、豊田譲氏で確定でしょう。

豊田穣 - Wikipedia

・・・・ただ、豊田氏は艦爆搭乗員のはずで、本当に大谷氏=豊田氏なのか疑問に思ったのでちょっと調べてみました。
豊田氏が戦後に描いたエッセイ「南十字星の戦場」および捕虜となるまでの状況を綴った作品「ニューカレドニア」を読むと、やはり艦爆操縦士であることが明記されています。

南十字星の戦場 (文春文庫 (159‐4))

また、アジア歴史資料センターのリファレンス番号C08051584800、「飛鷹飛行機隊戦闘行動調書」画像No.48を見ても、捕虜となった際の出撃で艦爆に乗っていたことは間違いありません。

となると、後書きの記述が誤りであり、大谷氏は豊田氏とは別人なのでしょうか?しかし米軍の調書に出てくる背景情報(海軍兵学校への入学年度や、父親が満鉄の駅長だったこと、捕虜となった状況やタイミング等)を考えるとやはり大谷氏=豊田氏で間違いなさそうです。

つまり、米軍は"有力な情報源"について肝心な所で誤解していたのではないか・・・という線が有力です。
豊田氏は偵察員と一緒に捕虜となっているため、単座の零戦搭乗員と誤認されるというのも考えにくい気がしますが・・・「ニューカレドニア」に偵察員の階級を士官だと偽ったエピソードが描かれており、米軍側から見ると「操縦士+偵察員」の艦爆搭乗員ペアではなく零戦の「操縦士」二名と認識されたのかなあとも思います。
この辺については豊田氏の捕虜時代の体験を綴った作品「長良川」に答えが出てるのかも知れませんが・・・・考えてみると物理的な本の数を減らすために買ったKindleで読んだ本の検証をするために物理的な本を買うというの本末転倒な気が・・・

長良川 (光人社NF文庫)

Kindle PaperWhite 3Gの使用感メモ(購入から半月目)

去年の末に購入してはや半月、もうそろそろ使用感を語れるぐらいの使用経験が溜まったかと思ったので、現時点での感想をメモ。

電子書籍に求めるモノ

過去の日記でまとめていたので参照。
ぼくのかんがえたさいきょうの電子書籍端末 - ka-ka_xyzの日記

基本的にはコミックは余り買わず、活字本に偏った使用法。

PaperWhiteの利用形態

PaperWhite本体+Amazon公式カバーの組み合わせで使用。主に通勤・帰宅時に電車内での読書に使用。

これまで購入したコンテンツ

モスクワ攻防戦 (山崎雅弘 戦史ノート)

ドイツ中央軍集団 (山崎雅弘 戦史ノート)

危機の指導者 チャーチル(新潮選書)

ソ連軍の「作戦術」とウラン作戦 (山崎雅弘 戦史ノート)

ガザ紛争 2008-2009 (山崎雅弘 戦史ノート)

嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫)

ポーランド軍と第二次大戦 (山崎雅弘 戦史ノート)

緋(あか)い記憶: 1 (記憶シリーズ)

レイコちゃんと蒲鉾(かまぼこ)工場 (光文社文庫)

戦術と指揮 命令の与え方・集団の動かし方 (PHP文庫)

この世でいちばん大事な「カネ」の話 (角川文庫)

営業ものがたり (コミックス単行本)

赤い星の墓標 (山崎雅弘 戦史ノート)

バグラチオン作戦 (山崎雅弘 戦史ノート)

現代中国の国境紛争史 (山崎雅弘 戦史ノート)

時の地図 (上): 1 (ハヤカワ文庫 NV ハ 30-1)

時の地図 (下): 2 (ハヤカワ文庫 NV ハ 30-2)

宙の地図 (上) (ハヤカワ文庫NV)

宙の地図 (下) (ハヤカワ文庫NV)

トレイシー 日本兵捕虜秘密尋問所 (講談社文庫)

何のかんの言って半月で結構買ってるなあ(雑誌記事ベースで単価の低い「山崎雅弘 戦史ノート」シリーズが入っているので、見かけ上数が増えてる傾向があるけど)。まあ、これだけ使った上での感想ということで。

良い点

1-Click購入システム

昼休みに喫茶店で一服しながら本を買えてしまい、かつ購入までのステップが最低限で済むというのはやはり最大のメリット。5分歩けば超大型書店へアクセス出来る環境にも関わらず、"昼休みにふらっと本屋へ寄る"という習慣が大分薄れた気がする。とは言え、本屋で本棚を見渡しつつブラウズする体験はやはり捨てがたくて、AmazonのKindle書店に限らず電子デバイス上で再現できる気がしない。

Wikipedia無料接続

PaperWhite 3Gは3G通信回線の使用料が無料ですが、Amazon購入ページだけではなくWikipediaへのアクセスも通信費無料という太っ腹さ。テキストをガリガリ読むことに慣れている人にとっては、史上最強レベルの暇つぶしマシンと言っても良いと思う。

背広のポケットに(何とか)入るサイズ

カバーを付けた状態で何とか背広のポケットに収まるぐらい。ただ、本当に「何とか」レベルなので背広によってははみ出しそうだなあ(高はDVDのトールケースとほぼ同じ)。"ポケットの中に何かデカイものが入っててパンパンな見た目"に成ってしまうので、営業系の人にはキツイかもしれない。個人的にはそんなのどうでもいいけれど気になる人には気になるだろうなあ。

あんまりよろしく無い点

気軽に貸し借り出来ない

しょうが無いといえばしょうが無いんですが、1-Click購入と深く結びついているため、迂闊に人に貸せません。設定で1-Click購入をオフにできるものの、そうすると手軽に購入できる魅力が半減。

電源ボタンが押しづらい

Amazon公式カバーの形状上、電源ボタンが非常に押しづらい感じです。

「画面をタッチして無反応」
 ↓
「電源ボタンを押す」
 ↓
「再度画面をタッチして無反応」
 ↓
「電源ボタンを押す」
 ↓
「やっと反応」

みたいな状況が多すぎ。そもそも、今反応可能な状態なのかどうかも分かりづらい。

読書中にアップデートが走る

たまに、本を読んでいる最中に問答無用でファームウェアアップデートのような動作(操作できなくなり、プログレスバーが表示される)となる場合があります。せめていったんページを閉じてホーム画面に戻ったタイミングで走るように成らないものか

スライドバーによるページ移動が出来ない

ページ移動のインターフェイスとして、ページ番号(位置No.)の数値を入力するか、目次の項目をタップするものしか用意されていません。
スライドバーによるページ移動はiOS版Kindleでは用意されていて

「はっきりと思い出せないけれど、前半1/5ぐらいの位置に書いてあったあのフレーズを確認したい」

という時に結構重宝なんですが、PaperWhiteでは今のところ無理。

刊行スケジュールが不明確(出版社側の問題)

これはamazonの問題というより出版社側の問題ですが、書店で欲しい新刊本を見つけたとき

「この出版社はKindle版を出していたけれど、この本はKindleで出るのか出ないのか。出るとしたらいつ頃かになるのか」

と迷ってしまい、結局買わないことがしばしば。こういう形で買い控えするのももったいないので、ある程度刊行スケジュールを決めてほしいところです。例えば、「XXXX文庫の場合、紙版の出版から一ヶ月後にはKindleで出る」というように見積もれるのであれば、本棚の物理的スペースを削って今すぐ買ってしまうのか、あるいは一ヶ月待つべきかという意思決定がしやすいです。逆にこのへんが曖昧だと、「いつかKindle版で出るんじゃなかろうか」と思ってるうちに忘れてしまうということに。

電子本は紙の本を凌駕するモノなのか?

読書体験という意味では紙の本には到底及ばないものの、やはりポケットに本棚を持ち歩ける+何時でも本を買えるという紙の本ではどうやっても実現できないメリットが有るので、活字中毒な人ほど(何のかんの文句を言いつつ)電子本をメインで買うように成るだろうなと予想。

「宇宙の傑作機」シリーズ、「SOYUZ FLIGHT LOG 1967-2011」感想

冬コミ(C83)にてゲト。

宇宙の傑作機 No.12 「RD-170」

ロシア(旧ソ連)が開発した「伝説的」ロケットエンジンRD-170について。

RD-170系エンジンは、ソビエト連邦にて1958年から始まった二段燃焼サイクルの研究開発が実を結んだ世界最大の推力を発揮する液体ロケットエンジンである。高効率、大推力、高信頼性、自動化、再利用、有人向けというおよそロケットエンジンに要求される全ての要求を叶えるべくして生まれた、究極のエンジンと言ってよい。

(p2 まえがき より)

メンテフリーで10回の再利用が可能という、何というか性能だけが高い特注品ではなく本気で「製品」として完成を目指したように見える凄いエンジン。ただし、開発・試験に使用されたエンジンが約300台というとてつもないリソース(ちなみにスペースシャトルメインエンジンSSMEの試作エンジンが18台とのこと)を消費し、エンジン開発費の見積りが(著者は"大きめの見積りかもしれない"としているが)約一兆円。しかし、エンジン開発だけにこれだけのリソースをつぎ込むというのはソ連ならではというか、冷戦期の悪夢というか・・・・そりゃ経済が破綻するよなあという印象。
今後10~30年ぐらいの打ち上げロケットはこのエンジンと派生技術抜きでは語れなく成りそう。凄い。

宇宙の傑作機 No.18 「NK-15/33」

ロシアの次世代打ち上げロケット「ソユーズ-1」で採用が決まったNK-33系エンジンについてまとめたもの。こちらもNK-15の試作エンジンが199台、NK-33では101台(p42の表による)と、いろいろ桁外れなエンジン。

宇宙の傑作機 No.9 「ヴォスホート宇宙船」

ソ連の有人宇宙船第二シリーズであるヴォスホート宇宙船について。技術的詳細よりむしろコロリョフへの評価の修正という点が興味深い。

宇宙の傑作機 No.17 「長征二号」

長征二号系に関する内容だけではなく、むしろ中国宇宙開発史といった印象。
"大躍進"や文革に振り回された時代のトホホなエピソード(ロケット開発工場で職員の96%が出勤して来なかったとか)、ロケット開発に関わった科学者が気功研究にハマって"法輪功の祖とも言える"人になった黒歴史、射場の選定理由が80年台以前は外交関係を悪化させないために落下物が国内に落ちることを最優先事項としていたものの、近年は

二段目以降はフィリピン上空を飛行することになるが、大国となった中国はもはや近隣諸国に配慮を示していない

という状況だったりという周辺情報が面白い。
また、この辺は著者も強調しているが、1996年の長征三号打ち上げ時の大事故以後、こと信頼性については一皮むけたというか、それ以前とは別物として考えたほうが良さそう。この辺は対中外交関係が上手くいっていない現状ではちょっと背筋が寒くなる話。

「SOYUZ FLIGHT LOG 1967-2011」

米国ではスペースシャトルが退役し、今のところISSへ人員輸送を行うための唯一の足となったソユーズ宇宙船の歴史について。悲劇的な人命事故で終わったソユーズ1号から、2011年12月に打ち上げられたソユーズTMA-03M号まで全てのフライトについて打ち上げ時刻・射点・形式・クルーおよびミッションの概要が描かれている(ただし、プログレス無人補給機は除く)という、いろんな意味で怪物的な一冊。
巻末の「ソユーズ年表」を見ると、1960年代後半から現在までほぼ切れ目なくコンスタントに打ち上げが継続されていて、腐っても宇宙大国ロシアという感じがする。

搭乗者の顔ぶれの移り変わりがまた面白く、冷戦真っ盛りな時代の軍事ミッションや"東側"諸国の搭乗員による同乗ミッション、ソ連崩壊後に当たり前と成る西側搭乗員、ISSへの人員輸送、民間人宇宙旅行者、果ては"マレーシア空軍がSu-30戦闘機を購入する見返りとして"の搭乗者など、60年代以降のソ連-ロシア史を反映した興味深いものになっています。

ソユーズ関連)幻のガチャピンミッションの謎

1998年8月に打ち上げられたソユーズTM-28号に、あのガチャピンが同乗して色々と無重力環境を活かした実験やパフォーマンスを行ったものの、通信回線の不調により地上へ映像を送信することが出来ず、結局お蔵入りとなったというエピソードが紹介されている。

参照: Wikipedia 「ソユーズTM-28」

ただ、この件についてはポンキッキーズ制作元である日本テレワーク社長の野田昌宏氏がSFマガジンに連載していたコラムで、「ガチャピンが打ち上げ時のGで潰れてしまったため、お蔵入りとなってしまった」という文章を読んだ記憶が有る。ただ、実家のSFMを片っ端からひっくり返して調べてみたものの該当する記述は発見できなかったので、記憶違いかもしれない。
しかし、岡田斗司夫・田中公平・山本弘『回収』 | diarismによると

岡田「『ポンキッキーズ』で。相変わらず日本のテレビ局ね、ソ連原文ママ)に金出して行かせるんです。で、宇宙からの中継やるつもりやったんです、ガチャピンがあの恰好で、『わー、僕は今宇宙に来てるよー!』て(笑)」

田中「誰に着させるつもりやったんかねぇ?」

岡田「それがソ連の宇宙飛行士に着させるつもりで、ぬいぐるみ荷物の所に入れてったんですよ。ところがね、打ち上げの発射ショックがすごくて、ガチャピンぺっちゃんこになって(笑)」

山本「Gで(笑)」

という対談が引用されており、Gで潰れて使えなかった説には何かしらのソースが有るはず(野田氏本人の発言や文章では無いかも知れないが)。果たしてオンエア失敗の本当の理由は何だったんだろうか。あるいは複数回ガチャピンミッションが試みられていたのかも・・・・

「軍事研究」2013年1月号

軍事研究 2013年 01月号 [雑誌]

軍事研究 2013年 01月号 [雑誌]

気になった記事について軽くメモ。

「4.7万人規模、日米共同統合演習の実態に迫る」

日米共同での離島奪還作戦を想定したと思われるシナリオや、北方部隊の南転が一般化してきていること、米海軍の揚陸艦による自衛隊車両輸送など、色々と面白い。

海上自衛隊ペルシャ湾掃海訓練

米軍主導の多国籍掃海演習IMCMEX12についての記事。機雷創作用UUV「リーマス」(REMUS 600 UUV to open new research windows on Chesapeake Bay, Hudson River, other marine environments - Military & Aerospace Electronics)の操作が汎用PC(Panasonicタフブック)とPC用USBゲームパッド。一方国産UUVであるS-7は今のところ専用コンソールらしい。まあ、リーマスは今のところ機雷捜索のみと機能が限定されているので、用途が大分違うっぽいけど。

プーチンのロシア、軍事情勢2012

ロシア徴兵制度の破綻っぷりや、完全志願制への移行中だが人も予算も足りなくて大幅定員割れ・・・という状況らしい。

内陸深く誕生した"戦車都市"

第二次大戦の独ソ戦で、ソ連の重工業や軍事産業の主力工場はウラル山脈の東側へと根こそぎ疎開し、一年ちょっとで生産を軌道に乗せることに成功したが、このような迅速な移転を可能にした背景についての記事。
日本やドイツが戦争末期に軍需生産が落ち込んだ原因の一つとして、軍需工場の疎開と分散が挙げられるけど、その辺と比較するとこの時のソ連の疎開計画は色々と凄い。基本的には鉄道輸送のはずで、低コストで大重量を運べる水運が無いと重工業はきつい気がするけど・・・。

アージュンMKIIトライアル映像公開

・・・・未だ諦めてなかったアージュン戦車。研究開発期間はそろそろ40年。これがホンモノの炎上プロジェクトって奴か。

参照: 軍事板常見問題「アルジュン戦車はどうなったのか?

欧州共同防空艦プロヴィンシェン級を探る

参照: デ・ゼーヴェン・プロヴィンシェン級フリゲート - Wikipedia

オランダ海軍のプロヴィンシェン級フリゲート「デ・ロイテル」同乗記。

居住区画は階級ごとに原色の赤や黄色、オレンジなどの色がドアや通路に多く使われており、用具やレイアウト等モダン・ヨーロッパのデザインを採用している。

日米欧露中で艦内デザイン・レイアウト比較とか面白そう。

冨田 浩司「危機の指導者チャーチル」感想

危機の指導者チャーチル (新潮選書)

危機の指導者チャーチル (新潮選書)

ヒットラーの攻勢の前に、絶体絶命の危機に陥った斜陽の老大国イギリス。その時、彼らが指導者に選んだのは、孤高の老政治家チャーチルだった。なぜ国民はチャーチルを支持したのか。なぜチャーチルは危機に打ち克つことができたのか。波乱万丈の生涯を鮮やかな筆致で追いながら、リーダーシップの本質に鋭く迫る。今こそ日本人が学ぶべき“危機の指導者論”。

近代民主主義制度の政治家としては規格外の"英雄的"政治家であるチャーチルについて。

アレクサンダー大王やシーザー、ナポレオンといった世界史の英雄たちは、基本的には専制君主です。近代民主政の政治家たちは(暗殺されたリンカーンのように死後英雄視されるパターンは有るものの)大抵は専制君主たちのような英雄的行動とは無縁です。代議制民主主義の政治家っていうのは基本的には利害の調整役であり、そのような行動を取る必要もありません。
ところがチャーチルはかなり例外的。どれだけ例外的かというと、「ルーズベルトが大統領でなくとも米国は第二次大戦に勝利したであろうが、チャーチルが首相でなければ英国は戦い続けることが出来なかったであろう」と評されるぐらい(出典は忘れた)。


彼がいかにイギリス人の心を掴んでいたかについて述べた、1903年生まれで第二次大戦を壮年期に経験したジョージ・オーウェルチャーチル評を引用してみます。

イギリス国民はおおむねチャーチルの政策を否定してきたが、チャーチル自身には常に敬意を持っていた。それは彼の生涯の大半を通じて語られてきた、彼に関するいろいろの逸話の調子からもわかるとおりである。これらの逸話は、多くの場合おそらく根拠の怪しいものであったし、また印刷をはばかるものもあったが、流布しているという事実が重要なのである。たとえば、ダンケルク撤退の際、チャーチルはよく引用されるあの戦闘演説を行なっているが、放送するためにその演説を録音したとき、実際にはこういったというのである。「我々は戦うのだ、海岸でも市街でも。・・・・・・・我々はあのくそったれどもに空き瓶を投げつけるのだ、我々に残されているのは瓶ぐらいのものだ」---しかしBBCの検閲官がタイミングよくスイッチをおしてその箇所(「我々はあのくそったれども」いか)を削除したことは言うまでもない。これは実話ではないと思われるかもしれないが、当時は、これでこそチャーチル、と受け取られていた。これは一般民衆がタフでユーモラスな老人に捧げた一つの格好の賛辞だった。民衆はこの老人を平時の指導者としては認めないだろうが、災厄の際には自分たちの代表者だと感じていたのだから。

オーウェル評論集 2 水晶の精神

オーウェル評論集 2 水晶の精神

 収録『書評 - ウインストン・チャーチル著「最良の時」』より


オーウェルはガチな社会主義者であり(関係無いけど、「1984年」だけ読んでガチ右なひとだと誤解してる人が結構多いような)、当時のチャーチルが掲げていた政策とは真っ向対立していました。また、スペイン内戦で従軍してプロパガンダの無意味さに絶望したり、かつ自身も第二次大戦中はプロパガンダ放送に従事したりしています。
こういう、チャーチルとは政治的に異なる意見を持ちプロパガンダの表も裏も知り尽くした経歴をもっている人が、それでもなお災厄の際にイギリス国民を一つにまとめあげたチャーチルを絶賛しているということからも、同時代のイギリス国民によるチャーチルに対する評価の高さが実感できます。

さて話を戻すと、「危機の指導者チャーチル」は、チャーチルの生い立ちから第二次大戦期に首相となるまで、そしてその死後の評価についてまとめた本です。

以下、気になった点のメモ。

ボーア戦争での従軍記者時代

チャーチルボーア戦争では従軍記者として鳴らし、特に捕虜になりながら捕虜収容所から脱走をかまして手記を書き、それが大人気となったことが政界入りのきっかけとなりました。
ただ、脱走に至る経緯は結構無茶で

以上要するに、チャーチルが数日間自重していれば、非戦闘員として釈放された可能性があったわけで、そうなれば彼のその後の人生は違った経路をたどっていたはずである。

という・・・まあでもチャーチルが自重できるはずが無いよな。

父親のランドルフチャーチルについての人物評

不幸なことに、彼には政治家に必要な政策立案能力や調整能力といった資質が備わっていなかったため、その活動は「一人芸」「瞬間芸」のまま終わってしまった。

鳩的なひとだったんだな。

1908年、自由党政権での商務長官としての働き

当時の商務長官は産業・労働政策の責任大臣だったということで、

任期中のチャーチルの業績には、失業保険の創設、職業紹介所の解説、「スウェット・トレード」と呼ばれる低賃金事業所における法定最低賃金の導入などが含まれ、彼を英国における福祉制度の創設者の一人と位置づける見方には十分な根拠がある。

その後、色々とゴタゴタの末に第一次大戦後には自由党から保守党へと鞍替えし、政治姿勢もガチガチの右になるものの、若手時代は結構左派寄りだった模様。

と、ここで思い浮かぶのはチャーチルが言ったとされる格言「20歳までに左翼に傾倒しない者は情熱が足りない。20歳を過ぎて左翼に傾倒している者は知能が足りない」だけれど、どうもこれは本人の言葉では無いらしい。

[Misc]チャーチルの言葉 - mobanama69号 [Misc]チャーチルの言葉 - mobanama69号

とは言え、チャーチルの政治姿勢の変遷を見ると「事実」では無いにせよ「チャーチルの格言」として流布されるに相応しいと思う。

妻クレメンティーンについて

家庭内での書き置きや往復書簡が大量に残っており

多くの手紙の末尾には、お互いの愛称にちなんでチャーチルの手紙にはパグ犬の、クレメンティーンの手紙には猫の絵が書き添えられていて、お互いを愛おしく思う思いが滲み出ている。

と、私生活上は円満夫婦、政治生活上もチャーチルに対して厳しい意見をズバズバ言える助言者として重要な役割を果たし続けたとのこと。

繰り返しになるが、クレメンティーンの生涯のほとんどすべてはチャーチルのためにあった。彼の国葬が終わった後、彼女はメアリー(引用注、娘)に、「あれはお葬式とは言わないわ。凱旋式よ」と述べたという。

いろんな意味で女傑。

参謀総長アラン・ブルックのチャーチル

(イギリス国民は)彼がどれだけ公共の脅威となり、現在でもそうあり続けているか全くわかっていないということだ。(中略)彼なしには、イングランドは確かに失われていたであろう。しかし、彼のお陰でイングランドは大惨禍の瀬戸際に何度も立たされたのだ。
(1944年9月10日付、参謀総長アラン・ブルック陸軍大将の日記抜粋)

戦争指導者としては偉大でも、軍事戦略に手をだされるとそりゃ専門家から見たらもう・・・・。でも戦争指導者としては偉大なことは認めざるを得ないというジレンマ。コレがツンデレって奴なのか?

融和政策の評価

今となっては「悪い政策の見本」として見なされてしまっている融和政策ではあるけれど、

長年のビジネス経験を経て、政界に入ったチェンバレンは、国際関係を市場に見立てて、相手は誰であれ、価格さえ折り合えば取引は成立すると本気で信じていた。

言い換えると合理性で割り切れるモノとして国際関係を捉えていたチェンバレンと、理屈よりも「ドイツ打つべし」が前提で動いてたチャーチルとは見てる世界が違っていたと。でもって、ヒトラーはそもそも公平な取引なんか考えてなかった。ただ、たしかにコレ(「話せば分かる」思想)は当時の知識人層からみたら、チェンバレン支持が多くなるよなーと思わざるえない。

対独講和(1940)の可能性

ダンケルク撤退直後、イギリス陸軍が重装備のほとんどを失った時期、ハリファックス外相を中心に、イタリアを介した対独講和をめぐる動きが有ったらしいとのこと。
英国が地中海に持つ権益(ジブラルタル・クレタ・マルタあたり)をネタに取引を行うという理性的な(その時点ではイギリス陸軍は戦闘力をほとんど失っている)ハリファックスに対し、チャーチルは「理屈じゃないよ!理屈抜きで勝利へ努力すべきだよ!諦めたらそこで試合終了だよ!」という感じ。当時の状況を理性的に考えればハリファックスは圧倒的に正しかったものの、結果的にはチャーチルの「非利の理」が大正解だったと。

英国を取り巻く状況は、明らかに勝利に向けた国民的団結を求めていた。そしてこうした団結を達成するためのリーダーシップは、勝利という目的実現のため妥協を許さない指導者以外からは期待できなかった。勝利を勝ち取るためには「非理」も辞さない勇気と決意、ハリファックスはそうした資質を欠いていた。

ただまあ、当時はまだチャーチルが首相としての政権基盤を確立していたわけではなく政権交代が発生する可能性は低くなかったと。

その場合、新指導者は、ハリファックス同様、国家の生存を確保するための「理性的」判断としてドイツとの講和を模索した可能性がある。

この辺の動きについては2015年ぐらいに機密文書が開示される可能性があるということで楽しみ。

政治家のお仕事

チャーチルの政敵であるアナイアリン・ベヴァンが、チャーチル死去の際に以下の様な追悼文を書いています。

(追悼文の中で)ベヴァンは、チャーチルを「歴史の興行師」と呼ぶ。そして、「チャーチル最大の貢献は人々に現実を直視しないよう説得したことにある。この国の人々がダンケルクの冷徹な現実によって意気消沈しているときに、彼はエリザベス女王とアルマダの戦いを考えるよう説得したのだ。彼の貢献は、五台の戦車の上に英国旗を覆いかけ、国民に対してそれが十五台であるかのように振る舞うように仕向けたことである」と述べているのであるが、本質をついた指摘といえよう。

追悼文でよくここまで書けるなーと呆れるぐらい辛口な内容ですが、国民に対して自らの信念を示し、義務を果たすよう説得する(あるいは煽る、乗せる)ってのは政治家にしかやれない仕事なのは確かです。そういう説得を放棄して、先に成文法変えてしまおうぜってノリの政治家は政治家以前に政治官僚でしか無いよなーと、改憲絡みの動きを見て思ったり。

ラファティ「昔には帰れない」感想(というか「素顔のユリーマ」感想)

笛の音によって空に浮かぶ不思議な“月”。その“月”にときめいた子供時代の日々は遠く……表題作「昔には帰れない」をはじめ、神話的な過去と現在を巧みに溶かしあわせた「崖を登る」、悩みをかかえる奇妙なエイリアンがつぎつぎに訪れる名医とは……「忘れた義足」、ヒューゴー賞受賞に輝く奇妙奇天烈な名品「素顔のユーリマ」など、SF界きってのホラ吹きおじさんの魅力あふれる中短篇16篇を収録した日本オリジナル短編集

ハヤカワ・オンライン書籍詳細より)

まだ全部は読み終わってないけど、冒頭の「素顔のユリーマ」が物凄い破壊力だったのでとりあえず感想を。


いやこれ凄いわ。どれぐらい凄いかって言うと、今まで90年台のアメリカ発ITブームの精神的な源流はW・ギブスンの「ニューロマンサー」を始めとする80年台サイバーパンク作品群だと思っていたけど、実は70年台初期に発表された「素顔のユリーマ」こそが"ギーク的"精神の源流という意味でITブームを引き起こしたんじゃないかと思うぐらい凄い。日本語で二十数ページ程度のサイズなのにこの破壊力は凄い。しかし、凄さを語ろうとすると、尺が二十数ページだけにネタバレしかねない。しかし凄さを語りたいのでなるべくネタバレせずに語る。

主人公のアルバートはとにかく愚鈍("彼は最後のドジ、まぬけ、うすのろ、阿呆だったのだ")、というか「社会的に有って当たり前」な能力が欠乏しています。しかし彼のたった一つの(そして壮絶な)才能は機械を発明する能力。
例えば小学校時代にすでに

字が書けない

自分の代わりに綺麗な字を書く機械を作って解決!

とか

計算出来ない

自分の代わりに計算してくれる機械を作って解決!

という才能が発揮されます。なんというか一点突破で尖りまくりすぎて社会的能力が皆無っていう。そんな彼に初めて訪れた挫折が女性関係。

好きな女性とイチャイチャ出来ない

自分の代わりにイチャイチャしてくれるリア充ロボットを作って解決!

したと思ったらそのロボットが好きな女性とイチャイチャしてるのを見てると腹が立ってきた

リア充爆発しろ!(物理的な意味で)ということで、こんな事もあろうかと用意しておいた自爆ボタンを華麗にプッシュ

いやすごい。70年台にして、すでに「リア充爆発しろ」ですよ。ラファティ凄い。そしてまた爆発したあとで肉片が飛び散ってきたりしてブラック。このあとも、数々の発明でノーベル賞っぽい賞を受けるものの演説で小馬鹿にされたりとか、自分が発明で救ったはずの社会から不適応者扱いされたりとか、自分が発明したロボットたちからも小馬鹿にされたりとか色々あって最後には・・・・・と、まあこれは実際読んでのお楽しみ。

とまあ、こういうふうに端折って書いてしまうと「ギークDisってんの?」みたいな感想が出ると思うんですが、以下引用

「みなさんは、非の打ち所ない、優秀な規格品でしょう。しかし規格外れがなくては、あなたがたは生きていくことは出来ないのです。あなたがたは死にますが、死んだことを誰が教えてくれるでしょう?敗残者や無能力者がいなかったら、誰が発明するでしょう?」
(後略)

こういう「社会を変革した規格外れモノが、彼自身は社会から疎まれつつ、それでも社会から認められようと必死で訴える姿」というのは、ギークなり理系人間が多かれ少なかれ抱え込んでるコンプレックスの核心をピンポイントで突いてる気がします。というか自分が突かれた。

いや作品全体としては物凄いブラックなんで、突かれて嬉しいかどうかっていうと結構個人差が出そうですが、とにかく読んで損なし。

しかし最近のWebサービス界隈によく居る「意識の高い」人達ってこういう捻くれた感覚に共感できるのかなあ。気になる。

押井守「ケルベロス 鋼鉄の猟犬」感想

1942年、"独裁者"が暗殺され生まれ変わったドイツは、凍てつくソ連の地で泥沼の戦いを続けていた。黒髪の女性将校マキ・シュタウフェンベルクは、甲冑を身に纏った装甲猟兵「ケルベロス」を記録映画に収めるため、最激戦区のスターリングラードへ旅立つ。孤立無援の最前線で奮闘する兵士たちの宿命を目にしたマキの胸に去来するものとは――。

押井守の小説作品は初読。アニメ監督としても「機動警察パトレイバー」関連程度しか知らないため、他にもあるらしい「ケルベロス」関連作品とは切り離して、この小説単品での感想を書きます。

で、感想ですが・・・・・。先ず気になるのが、膨大な量のペダンチックな描写。ペダンチックな描写やウンチクを積み上げて仮想歴史を語るっていう手法は仮想戦記でよく有る手法で、この辺の描写が絶妙に上手かった(過去形)佐藤大輔を思い起こさせます。ただ、佐藤大輔作品では歴史改変プロセスにもウンチクを積み上げ、歴史改変に説得力を持たせていたのですが、「ケルベロス」では兵器や戦術についての膨大なウンチクの影で、歴史改変の内容と結果については割りとあっさり流されています。例えばドイツは対ポーランド戦と対仏電撃戦に勝利しているようですが、対英・対米戦争は行われていない様子(英本土上陸作戦に成功した結果として対連合国戦争は終結したのか、他の原因で停戦となったのかは明確に書かれていないような。p260で四発重爆を作って何処を爆撃するのだ?というような描写があり、英本土を爆撃するような必要が無くなっていることは確か。ああでも「大西洋の防壁」は有るんだよなあ)。まあこの辺は、作者の関心が箱庭的な歴史改変世界の完成度を高める方とは別の方向に向いているという事でしょう(ただ、最後にレニングラードで発生した"ある出来事"が如何にして可能になったのかという説明は積み上げておくべきだったと思うけど)。

で、主題である装甲猟兵「ケルベロス」の虚像に対する憎愛について。
何というか、ミリヲタ界隈でよく見られるドイツ戦車の無敵伝説に対する憎愛というテーマと根は同じなのかなあという印象。同じくアニメ監督として有名な宮崎駿は筋金入りの戦車マニアであり、ドイツ戦車無敵伝説を、戦車整備兵「ハンス」を描いた一連の漫画作品や「泥まみれの虎」等で、「妄想」として叩ききっていることでも有名です。文章としては梅本 弘「ベルリン1945―ラスト・ブリッツ」の後書きとして、その愛?憎の思いの丈が綴られています(後書きタイトルが「妄想戦車戦論 戦争という”お化け”の正体に迫るということ」、各パラグラフのタイトルが「戦車が強いなんて妄想です」「哀れな乗り物・戦車」「ドイツ軍の妄想・ソ連軍のリアリズム」「スタジオジブリ、ドイツ軍化計画?」と抑えが効いてない暴走ぶり。宮崎駿ジブリ映画でしか知らない人に是非感想を聞いてみたい濃い内容です)。

ベルリン1945―ラスト・ブリッツ (歴史群像新書)

ベルリン1945―ラスト・ブリッツ (歴史群像新書)

ただなあ・・・"ドイツ重戦車"の場合、ミリヲタ界隈だけにせよまだ無敵伝説という幻影が共有されているものの、"装甲猟兵「ケルベロス」"についてはこの作品単体では、読者にその幻影を共有させることが出来ず、正直なところ、否定されても愛を語られても、あまり衝撃もエモーションも無いというか・・・。映像作品であれば、プロパガンダフィルムに残る"ケルベロス"行軍シーンだけで観客の脳髄へ幻影を埋め込むということも可能だったと思います。ただし、この小説単体では読者の感情に訴えかけて幻想を埋め込むという仕込みの部分が決定的に不足しており、結果として「近代戦で鎧なんか役にたたない」と言われてもああそうですかとしか言い様が無くなる訳で。一方で、映像作品として作った場合にはそれはそれでペダンチックな描写に自ずと制限がかかる訳で。

おそらく、他の映像作品を含む他の関連作品とセットで読まないと魅力が伝わらないということかと。この小説単独では、かなり中途半端な印象を受けます。あと、ペダンチックな描写といい、舞台設定といい、かなり読者を選ぶというかミリヲタ以外立入禁止的なノリなので注意。