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森岡浩之「突変」感想(ネタバレ有り)

突変 (徳間文庫)

突変 (徳間文庫)

関東某県酒河市一帯がいきなり異世界に転移(突変)。ここ裏地球は、危険な異源生物(チェンジリング)が蔓延る世界。妻の末期癌を宣告されたばかりの町内会長、家事代行会社の女性スタッフ、独身スーパー店長、ニートのオタク青年、夫と生き別れた子連れパート主婦。それぞれの事情を抱えた彼らはいかにこの事態に対処していくのか。異様な設定ながら地に足のついた描写が真に迫る、特異災害(パニツク)SF超大作!

異世界にいきなり放り込まれる系SF。


ある時期から、ある程度の広さの地域が消失し、かわりに現在の地球とは全く異なる凶暴な生態系へ置き換えられるという「突変」現象が発生するようになった世界。元々存在していた場所は、その全く異質な生態系を持つもう一つの(おそらく平行世界上の)地球に存在する同じ地域と置き換えられてしまうと推定されています。
S・キング「霧」( スケルトン・クルー〈2〉神々のワード・プロセッサ (扶桑社ミステリー) 収録)あたりとシチュエーションは似てるかもしれない。


過去に人口密集地(関西圏中核部とか)がまるごと「突変」してしまったこともあり、それなりの規模の人口・産業基盤が「突変」先の地球上に存在し、社会を維持している可能性はあります。ただし、その平行世界と連絡を取る方法は全く存在していないため、「突変」先の世界でどのような社会が築かれているのかは全くわかっていません。

この「突変」現象は現実世界でいうところの巨大地震のように、稀にしか発生しないものの防ぎようの無い天災として認識されています。なので市役所レベルで外の地域と切り離されることを想定した非常食糧が備蓄されていたり、「突変」先の生物へ対応するため軽火器を扱う「防除団」が組織されていたりといった行政レベルでの対策は取られていますが、かといって今日明日にも自分たちが「突変」してしまうという切迫感はあんまり有りません。

で、どうという事もない平凡な郊外ベッドタウンでの平凡な日常の中で「突変」現象が発生し、否応なく異世界でのサバイバルが始まることに・・・・・・

面白いのでオススメだけど、ちょっと気になる点もあるので以下ネタバレ。








基本的には「突変」現象はかなりレアな天災で、人口密集地で発生することはまずありません。
一応、地域社会に根ざした消防団的な「防除団」が組織され、異質な生態系で地域社会を守るための軽火器が支給されたりしてます。が、かなりレアな天災なので防除団の位置付けは結構なおざり。ニートで引き篭もり一歩手前のニコ厨青年が防除団長で、「合法的に銃を撃ちたい」ことが志願動機の団員が殆どだったりとか、どう見ても社会不適応者の集まり。
で、そういう「火力が充実してる社会不適応者」はハリウッド映画だとかだとわりかしモヒカンヒャッハー状態になって権力を握ろうとかしそうですが、そういう方向には行かない。
これは「突変」に巻き込まれた町内会長(実質的な行政指導者)や、スーパーマーケットの店長(生活物資の大元締め)もそうで、トップに立てるだけの力があっても「我こそは権力を握るなり」的な方向へ行かない。
また、もう一人のキーパーソンとして即応予備環境警備官(防除団とはまた別系統の組織)が居るのですが、こちらもまた町内会と防除団を自由に動かそうと思えば動かせるチャンスはあるものの、掴まない。またこの人、"ある人物"の指揮下に入るかどうかで色々と揉める描写があるのですが、そこで問われるのは「どうすれば自分の(あるいは町内の人々の)生存確率を上げることが出来るのか」ではなく「法的に妥当な命令系統なのか」なんですな。

全体的に見てかなり草食系。

一応、序盤から陰謀論をかっ飛ばす市議会議員みたいな人も居ますし、住民を扇動してあれこれやったりする訳ですが、扇動に乗ってくる人はせいぜい4~5人レベル。


町一つまるごと「突変」した訳で、もうちょい油ギッシュでアンビシャスな「俺達の野望の王国を作るぜ!」的な人が一人や二人居ても良い気がしますが、現代日本の平凡な地方都市を舞台にしてると、よくも悪くもそういう人物はギャグにしかならないような気がする。
ただ、変に油の抜けた感じの人しか出て来ないあたりは、ラスト付近のやり取りを見てる限りではかなり意図的なものっぽいので次作以降に期待。


まあなんのかんの言って、「災害SF」「サバイバルSF」「異質な社会との遭遇SF」「○○SF(巻末解説でも伏せられていたので一応伏せとく)」といろんな要素をぶち込んだ上、SF系だけではなく一般小説読者でも楽しめそうな魅力が詰まった作品。オススメ。