「戦国の軍隊: 現代軍事学から見た戦国大名の軍勢」感想

戦国の軍隊: 現代軍事学から見た戦国大名の軍勢

戦国の軍隊: 現代軍事学から見た戦国大名の軍勢

「信長・秀吉軍は東国大名の軍隊よりも進んだ軍隊だった」、「戦国の兵士たちは農兵だったため、合戦は農閑期を選んで行われた」…。一見すると正しいように思われるこうした通説は本当に事実なのか。本書では従来の研究に決定的に欠けていた「軍事」の視点から、戦国大名の軍勢、すなわち「戦国の軍隊」の再検証を試みる。「前線」「部隊」「兵站」「作戦・戦術」等の現代軍事学の概念を当てはめて見直していくことで、まったく異なる「戦国の軍隊」像が提示される。戦国史の常識をくつがえす、戦国ファン必読の最新研究。


内容について軽くメモ。

当時の軍隊が、一山いくらの雑兵(集団戦・兵種別編成・軽装・遠戦指向)と武士・侍(切り込み先鋒・重装備・近接戦指向)の二層構造の軍隊であったという指摘は面白いです。武士というと漠然と近代軍における士官のような集団の指揮官という印象がありましたが、それとは別枠で恩賞を求めて敵陣へ突撃していくという下級武士たちも存在していたと。
従来のイメージだと武士に焦点が当たりすぎ、かといって発表当時「これまでの常識を覆す」と話題になっていた「鉄砲と日本人」では遠戦指向に焦点が絞られていてなかなかイメージが掴みづらかったのですが、この「二重構造」という説明は納得いくものに見えます。
また、封建制に根ざした領地ごとの編成(当然領地の人口や経済力に応じて装備や規模はバラバラ)から領地の垣根を取り払った均質的な兵種別編成への移行が行われていたとの主張も興味深く思われます。雑兵を集める際には領地ごとに集めているので、このような文献のみを見ていると封建制に基づいた軍隊っぽく見え、一方で「」のような(現代的に言うと)諸兵科連合作戦単位も存在するという矛盾を上手いこと説明できそうです。
さらに、この本は単なる軍事史の研究にとどまらず、欧州ではこのような「軍事革命」が封建制を壊す方向へ働いたものの何故日本ではそのような方向へ進まなかったのかという、大きな問いかけがされています。

最近の戦国軍事史本のなかでもかなり面白く読めた一冊でした。オススメ。