田中健夫「倭寇」感想

倭寇―海の歴史 (講談社学術文庫)

倭寇―海の歴史 (講談社学術文庫)

半裸に裸足、大刀を振るって大海を荒らしまわる「荒くれ者の日本人」という倭寇像は、歴史の真実とは掛け離れている。中国人・朝鮮人・ヨーロッパ人も含んだ海民集団は、時の政治・外交に介入し、密貿易を調停し、一四〜一六世紀の国際社会の動向を左右した。陸地中心の歴史観を超え、国境にとらわれない「海の視点」から、その実像を浮き彫りにする

著者は倭寇を時代別に「14〜15世紀倭寇」と「16世紀倭寇」と分類し、活動の内容も全く異なるとしています。
後者については狭義の海賊と言うよりも、明朝の解禁海禁政策により発生した密貿易集団(もちろん場合によっては襲撃)と言った感じで、構成も日本人は1〜2割でほとんどが中国人、さらには当時東アジアへ進出してきた西洋人も含むというカオス状態。要は中国側から見ると出自を問わず、東シナ海を中心に不法行為を行う集団をまとめて「"倭"寇」と呼んでるようです。
また、この時期に倭寇が行ったとされる残虐行為についても宣伝のために誇張された表現が用いられているという指摘がされています。「日本鬼子」「東洋鬼」といった中国側から見たネガティブな日本人へのイメージは、19〜20世紀以降の歴史だけを見るのではなく、「16世紀倭寇」の頃からのイメージ形成過程を抑える必要が有りそう。

物足りない部分としては、「雑兵たちの戦場」

【新版】 雑兵たちの戦場 中世の傭兵と奴隷狩り (朝日選書(777))

【新版】 雑兵たちの戦場 中世の傭兵と奴隷狩り (朝日選書(777))


で触れられている東南アジアでの日本人傭兵集団(雇い主は欧州人)と「倭寇」とは重なる部分がかなり多そうではありますが、その辺についてはほぼ触れられていないのが残念。