松井 孝典「スリランカの赤い雨」感想(続き)

松井 孝典「スリランカの赤い雨」感想(正直お勧め出来ない) - ka-ka_xyzの日記の続き。

前回、「赤い雨」に含まれる細胞っぽい見た目の微小物が生物なのかどうか調べる努力ぐらいしろ(あるいは、そういう研究がされてるなら紹介しろ)と書きましたが、ケーララの赤い雨 - Wikipediaによるとそういう論文が出てるそうなので、さっくり読んでみます。

New biology of red rain extremophiles provecometary panspermia
Godfrey Louis & A. Santhosh Kumar
http://arxiv.org/ftp/astro-ph/papers/0312/0312639.pdf

要約すると「赤い雨に含まれる生物っぽい見た目の微小物の培養に成功した。高温環境下(300℃)でも増えるよ」という内容ですが、あーなんというか脇が甘すぎて話に成らない。

論文の著者らは、下記のような培地を使って培養に成功したとレポートしてます。

In combination with water the following materials like: transformer oil, cedar wood oil, petrol, glycine, sulphamic acid (NH2.SO2.OH) with CO2, povidone iodine, ethanol, methanol, potassium permanganate and several other inorganic and organic compounds were found to support the growth of these organisms with varying degrees of activity.

・・・・・濃度は?
これ大事。例えばCookpadでウマそうな献立見つけて早速作ってみようとして材料を見てみたら

材料
ウインナー
白菜
小松菜
人参
椎茸
生姜
炒め油
出汁の素
片栗粉
醤油

と素材だけ書かれてて量について何にも記載が無かったら作るとき困るでしょ?おんなじ料理を再現するのどう考えても無理じゃね?上で引用した培地の成分って正にこういう状態。こんな情報与えられても同じ結果(Cookpadの場合は料理、この論文の場合は「生物っぽい見た目の微小物」の培養)出ねーよ。無理ゲー。
普通は

材料 3~4人分
ウインナー 160g
白菜 6枚くらい
小松菜 1/2袋
人参 50g
椎茸 4枚くらい
生姜 1片
炒め油 少々
出汁の素 小さじ1
片栗粉 大さじ1
醤油 大さじ1
50cc

みたいに、量(濃度)までちゃんと書くでしょ。(ちなみに、上記の材料は
白菜とウインナーのとろりん炒め煮★ by しおかつを [クックパッド] 簡単おいしいみんなのレシピが160万品から引用)
もっと言うと、生物系の論文だと水の精製方法も書くし、使った試薬のメーカーも書くし、場合によっては試薬のロット番号まで書く。人工的に作った培地じゃなくて天然の海水とかを使った場合でも「XXX地方で何時頃採取した海水」みたいに書く。

あと培地の成分以外にも、培養温度は書かれてるけど圧力については明記されてないとか色々問題がありすぎる。


何でそんなめんどくさいことが重要なのかというと、実験を扱った論文ではCookpadのレシピと同じで

「赤の他人が読んでも結果を再現できる」こと(結果の再現性)

が求められるからです。再現性は科学の基盤。培地の各成分の要素のような、再現性を提供する必要最低限の情報を全く提供しないというのは、そもそも科学的姿勢で書かれて無いってことです。

まあ、実際の所はよほどインパクトのある論文で無いと、わざわざ結果を再現させようっていう人はそう居ないです。また、料理でいうところの火加減とかアクの取り方みたいな細かいけど出来栄えを大きく左右する要素については、猿真似を防ぐために敢えて触れずに済ますケースもあり得ます。さらには、そういう状況を悪用して実験結果を改ざんしたり、やってない実験について結果を捏造したりというケースも問題になってます。

でもまあ、この論文についてはそれ以前の問題として、結果を再現するための最低限の情報が全く提供されていないです。駄目だこりゃ案件。

最後に、前回も書きましたが個人的には「惑星間・恒星間空間に開かれた生態系」というパンスペルミア説のアイデアは事実であって欲しいです。でも、それはあくまで科学的検証の対象として扱われるべきであって、今回取り上げた論文のような「再現性なんてしらねーよ」レベルの「論文」や、宇宙意志や仏教的宇宙観がどうたらといった思弁の玩具にされるというのは怒りを覚えます。

一言で言うと
「ぽまえら真面目にやれ!」