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谷甲州「137機動旅団」佳作入撰時の選考座談会から

読書 雑記

10年ぐらいまえに入手した奇想天外1979年3月号をふと読み返す。

この号は第2回奇想天外SF新人賞の結果が発表されており、今やベテランとなった谷甲州氏("甲州"名義)が初作品「137機動旅団」で佳作入選、牧野修氏("牧野ねこ"名義)が「名のない家」で同じく佳作入選という、日本SF史的に結構興味深い号です。もう一作"竜山守"名義で「ヘル・ドリーム」が佳作入選していますが、結果としては第2回奇想天外SF新人賞では佳作のみで受賞作はありませんでした。

元々この本を入手したのは、谷甲州氏が後年発表する一連の「航空宇宙軍史」の原点となる「137機動旅団」が目当てでした。この作品は今でも商業出版物には収録されておらず、幻のデビュー作となっています(長編化の構想があるとのこと。あと、「終わりなき索敵」内で関連するパートあり)。

終わりなき索敵〈上〉 [航空宇宙軍史] (ハヤカワ文庫JA 569)

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さて、新人賞と言ったら選考座談会ですが、メンツが何と日本SF御三家(小松左京氏、星新一氏、筒井康隆氏)という超豪華メンバー。これがまた中々面白く、せっかくなので「137機動旅団」関連部分のみ座談会から抜書きしてみます。一応、

  • 「奇想天外」誌は既に廃刊、当時の発行元であった奇想天外社も1981年に倒産しており、将来的に復刻される可能性も低いこと
  • 将来的に「137機動旅団」や「名のない家」が何らかの短篇集に収録されたとしても、座談会が収録される可能性は非常に薄いこと
  • SF史的に興味深い内容であること

といった理由から公開に問題ないと判断していますが、関係者から申し出があった場合には削除する予定です。また、引用部の発言者名については敬称略としています。

まずは冒頭の三者一押し作品表明部分から。

 これは・・・・・・というのはぼくはネコの話しかない。

小松 「名のない家」だな。ぼくはそれと「ヘル・ドリーム」ってのがあったろう。オートバイのやつ。あれ、うまいよ。

 うん、文章は確かだ。

小松 二十歳の書き方にしてはうまい。

筒井 ぼくは「137機動旅団」しかないな。

小松 あれはある意味じゃうまいけど、筒井さんの「トラブル」を思い出した。

筒井 いやいや、それより石川さん(引用注: 石川英輔氏?)辺りが読んだら、カッカしそうな・・・・・・。ソンミ村虐殺事件を思わせるものね(笑)

「名のない家」を推す星氏、「ヘル・ドリーム」を推す小松氏、「137機動旅団」を推す筒井氏という構図です。「137機動旅団」の作風としては後年の「航空宇宙軍史」とほぼ同様であり、御三家の中ではハードSF寄りな小松氏が押しそうな感じだったので意外。筒井氏はベトナム戦争をオーバーラップした文明批評SFとして評価してる感じです。
次に、候補作を順に紹介する流れへ移っていきます。

編集部 では、一作づつ簡単に・・・・・・。

小松 一番最初に「137機動旅団」か。これは、話としてはよくできてるんだけどなあ。

筒井 最初はそれほど感心しないんだがね。最初横書きに書いてるのを見て、それだけでもうダメだと思って、だいぶん、心証をわるくしたけど、読んでみるとこれが一番読みでがあるわけ。

小松 ハードSFらしい作品だな。だから、ほら、ハインラインの『宇宙の戦士』をどう評価するか、という問題になっちゃうわけだ。あれとちょっとシチュエーションが似てるな。

筒井 ところが、この作品はさらにベトコンのことをオーバーラップしているわけでしょう

小松 ほらはじまった(笑)

筒井 共産主義思想というのがこうなんだ、と言いたいのかもしれない。

小松 いや、そこまでは言ってないだろうけど、おそらくそういうふうなことの背景はあるだろう。それからもう一つ、実はインドがそうだったということだろう、インドに対するイギリスのやった政策ってのはそうだったんだということなんだな。これでおさまるかということもあるんだけどね。

 もう少し、この星の描写があるとあるといいんだけど・・・。

小松 地球と同じということでしょ。ほとんど同じ重力。大気も同じで、人間も皆似てるんだから。

筒井 ちゃんと前の方に伏線も入ってるしね。

小松 うん、すごく筆力はあるんだ、これ。

 ま、一番年長だし。社会体験もあるわけだ。きっとこの人は。

小松 自衛隊に入ったのかな、このひとは。たとえば戦闘命令なんか非常に鮮やかだもの。これは残しておこう。

横書きだけど(この座談会の超重要キーワード)「137機動旅団」を推す筒井氏。ベトナム戦争の終結が1975年なので、座談会の時点ではほんの数年前。また「137機動旅団」の内容もベトナム戦争を思わせる(今ならイラク戦争やアフガンを思わせる)非対称戦を扱っており、確かに当時の筒井氏好みと言えそう。
ちなみに谷甲州氏は当時青年海外協力隊としてネパール在勤中だったとのことで、タテ書き原稿用紙の入手は非常に困難だったはず。

さて、ひと通り候補作の紹介が終わった後で話は再び「137機動旅団」へ戻ってきます。

小松 それでは元に戻って実はぼくこの「137機動旅団」というのはね、横書きでぼくも頭にきちゃったんだけども、これは新しいせいか若い人が多いせいかと思ったんだけど、SFというのはなんかこう、論理的にあっと言わせる太い筋があるでしょう。つまりガッチリと隙なく論理を組み立てていって、伏線があって、それでどんでん返しをして、ぱっと広げていくという、その骨格を持っているのはこれぐらいだろうという感じがしたんだ。

筒井 とにかく最後の方はセンス・オブ・ワンダーがありますね。これだけですものね。

 これ、誤字が結構あるな

筒井 いや、他の人にもいっぱいありますよ。

小松 それはものすごいものがあったぞ。

 地球への一種の風刺というか、アイロニイならいいんだけど、現実としてこういうことがあっても別にぼくはなんとも思わんがな。相手がそういう宇宙人だったらそういう手段を当然容赦なくとるだろうし。

小松 やっぱり見た目は地球に似ていて、それでグルカ兵が、じいさん見て故郷を思い出すとか、あそこがわりと鮮やかな伏線になってるんだよね。

筒井 はっきりと地球の地名が出てくるしね。

小松 うん、しかもこの連中がいくらやっても負けるのは、旅団兵士が非戦闘員を絶対殺さないという戦闘のベテランとして訓練されているという・・・・・・。

 それが伏線だな。

筒井 ただ、ぼくはやっぱりハインライン的な思想が根本にあると思うから、凄いと思うわけで、ただ単に星の話であればぼくは別になんてことはない話だと思う。

横書きだけど「137機動旅団」を高く評価する小松氏と筒井氏に対して、星氏は「当たり前の話である」として高く評価はしていません。この辺は御三家のSF観や作風の違いが現れていて興味深いです。
さて、話は奇想天外誌へ掲載する際に修正を入れるべきかという方向へ。

 このネパールの人はもう書き直しようが無いだろうな。

小松 ないだろうな。

 本当に、ネパールにいるのかな。このへんに居るんじゃないか(笑)

小松 実はこれは一種の宇宙小説になってるんだけども、要するに地球上の政治風私小説としてもよくできてるっていうのは・・・・・・。

筒井 かえって困る?

小松 いや、困らないけど、たとえば敵は平和交渉やってるところへロケットをぶち込むってわけだろ。

筒井 星さんは、あまり感心しないわけですか。

 ぼくに言わせりゃ、あの、いわゆるテレビの「インベーダー」と同じような感じで・・・・・・。

筒井 ウーン、そうなってくると、最後の真相が分った時もあんまりショックは受けないですね。

 ウーン。

筒井 人間一人一人がXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX。(引用注: ネタバレに付き伏字とします)

小松 あ、そうか。

 だからぼくも、その相手がそうなら当然の対応だというのが感想のメモなんです。

筒井 これ、映画にしたら、スゴイよ(笑)

 一つの問題提起になってるけどね。

小松 うん、ヒントは本当に彼がアジアへ行ってみてさ、インドとかね、おそらくネパールなんかね、あそこ、山の斜面だから割と涼しくて日本と似てるわけ。だからアジアへ行ってみてのショックだろうな。これは要するに普通の対応じゃダメんだということがあったんだと思うが、ちょっと重かったんだ、ぼくには。

「ネパールの人」・・・しかし、小松左京御大に"ちょっと重かった"と言わしめるデビュー作ってのも凄いな。
さて、総評

筒井 そうするといつも不思議に票が割れちゃうんだけどなあ。星さんが「名のない家」でしょ。小松さん「ヘル・ドリーム」でぼくは「137機動旅団」で。

 「137機動旅団」、ぼくこれ、タテ書きだったら未だかなり印象が変わっていたかもしれないよ。タテ書きであればもっと良い点をつけた(笑)。しかし、ヨコ書きという非常識を侵しているにしては、内容はガッチリしている。この中では一番うまいですね。

小松 SFっていうのはある意味ではこうやってみると衰弱してきたのかもしれないな。

 ウーム。

筒井 できれば一つ入選作を・

小松 入選作にしたら割れちゃうからしょうがないや。

筒井 そうですね。

 小松さんはその「137機動旅団」と「ヘル・ドリーム」はどっちを取る。

小松 ぼくが感動したのは「137機動旅団」なんだ。で「ヘル・ドリーム」はさっき言ったみたいにあそこまで書き込める筆力を持ってる人がね、結末がなんでこんなに底抜けになっちゃうんだ、ということ。

(引用注: 以降、結果のまとめに入り座談会終了)

タテ書きだったらもっと評価したという星氏。またしても横書きの呪いが・・・横書きじゃなかったら入選したんじゃないかなと思うぐらい、三人とも横書きについてマイナス点をつけてますね。まあ当時のネパールで日本向けのタテ書き原稿用紙が簡単に入手できるはずは無い訳で、もうちょっと情状酌量の余地は無いもんかなあと。
とは言え当時は個人向けで文章作成に使えるようなPCはおろかワープロ専用機すら存在しない訳で(和文タイプで小説書くのはかなり厳しい気が)、手書き生原稿の山を読んでたらやはり横書きは気になるのかなあ。
自分が大学でレポート書くようになった時には既にワープロ専用機時代は過ぎ去り、PCで文章を作ってプリントアウトを提出するか、データとしてそのまま提出が当たり前になっていた世代としては、この辺のタテ・ヨコに関する皮膚感覚は正直想像が難しいです。紙というハードと、文章というコンテンツが不可分な時代ならではというか。