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ラファティ「昔には帰れない」感想(というか「素顔のユリーマ」感想)

読書

笛の音によって空に浮かぶ不思議な“月”。その“月”にときめいた子供時代の日々は遠く……表題作「昔には帰れない」をはじめ、神話的な過去と現在を巧みに溶かしあわせた「崖を登る」、悩みをかかえる奇妙なエイリアンがつぎつぎに訪れる名医とは……「忘れた義足」、ヒューゴー賞受賞に輝く奇妙奇天烈な名品「素顔のユーリマ」など、SF界きってのホラ吹きおじさんの魅力あふれる中短篇16篇を収録した日本オリジナル短編集

ハヤカワ・オンライン書籍詳細より)

まだ全部は読み終わってないけど、冒頭の「素顔のユリーマ」が物凄い破壊力だったのでとりあえず感想を。


いやこれ凄いわ。どれぐらい凄いかって言うと、今まで90年台のアメリカ発ITブームの精神的な源流はW・ギブスンの「ニューロマンサー」を始めとする80年台サイバーパンク作品群だと思っていたけど、実は70年台初期に発表された「素顔のユリーマ」こそが"ギーク的"精神の源流という意味でITブームを引き起こしたんじゃないかと思うぐらい凄い。日本語で二十数ページ程度のサイズなのにこの破壊力は凄い。しかし、凄さを語ろうとすると、尺が二十数ページだけにネタバレしかねない。しかし凄さを語りたいのでなるべくネタバレせずに語る。

主人公のアルバートはとにかく愚鈍("彼は最後のドジ、まぬけ、うすのろ、阿呆だったのだ")、というか「社会的に有って当たり前」な能力が欠乏しています。しかし彼のたった一つの(そして壮絶な)才能は機械を発明する能力。
例えば小学校時代にすでに

字が書けない

自分の代わりに綺麗な字を書く機械を作って解決!

とか

計算出来ない

自分の代わりに計算してくれる機械を作って解決!

という才能が発揮されます。なんというか一点突破で尖りまくりすぎて社会的能力が皆無っていう。そんな彼に初めて訪れた挫折が女性関係。

好きな女性とイチャイチャ出来ない

自分の代わりにイチャイチャしてくれるリア充ロボットを作って解決!

したと思ったらそのロボットが好きな女性とイチャイチャしてるのを見てると腹が立ってきた

リア充爆発しろ!(物理的な意味で)ということで、こんな事もあろうかと用意しておいた自爆ボタンを華麗にプッシュ

いやすごい。70年台にして、すでに「リア充爆発しろ」ですよ。ラファティ凄い。そしてまた爆発したあとで肉片が飛び散ってきたりしてブラック。このあとも、数々の発明でノーベル賞っぽい賞を受けるものの演説で小馬鹿にされたりとか、自分が発明で救ったはずの社会から不適応者扱いされたりとか、自分が発明したロボットたちからも小馬鹿にされたりとか色々あって最後には・・・・・と、まあこれは実際読んでのお楽しみ。

とまあ、こういうふうに端折って書いてしまうと「ギークDisってんの?」みたいな感想が出ると思うんですが、以下引用

「みなさんは、非の打ち所ない、優秀な規格品でしょう。しかし規格外れがなくては、あなたがたは生きていくことは出来ないのです。あなたがたは死にますが、死んだことを誰が教えてくれるでしょう?敗残者や無能力者がいなかったら、誰が発明するでしょう?」
(後略)

こういう「社会を変革した規格外れモノが、彼自身は社会から疎まれつつ、それでも社会から認められようと必死で訴える姿」というのは、ギークなり理系人間が多かれ少なかれ抱え込んでるコンプレックスの核心をピンポイントで突いてる気がします。というか自分が突かれた。

いや作品全体としては物凄いブラックなんで、突かれて嬉しいかどうかっていうと結構個人差が出そうですが、とにかく読んで損なし。

しかし最近のWebサービス界隈によく居る「意識の高い」人達ってこういう捻くれた感覚に共感できるのかなあ。気になる。