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タックマン「決定的瞬間」感想

読書

決定的瞬間―暗号が世界を変えた (ちくま学芸文庫)

決定的瞬間―暗号が世界を変えた (ちくま学芸文庫)

ある暗号電報の解読が、世界史を変えた!第一次世界大戦の勃発から2年半、欧州戦線は膠着し、850万人の死者を出してなお出口の見えない泥沼が続いていた。アメリカが参戦しないかぎり戦局は動かない。しかし当のウィルソン大統領はあくまで中立を貫く。そんなある日、1本の暗号電報を傍受したことから、英海軍諜報部が動き出す。イギリス、ドイツ、アメリカの決断は? メキシコ、日本を巻き込んで、水面下で息詰まる情報戦が繰り広げられ…。名著『八月の砲声』の著者が、膨大な資料を綿密に読み解き、アメリカ参戦の内幕を克明に描き出した傑作歴史ノンフィクション。

ツィンメルマン電報」事件を通じてアメリカが第一次大戦に参戦するまでの過程を描いたノンフィクションです。煎じ詰めれば空気を読めないドイツ外交と、空気を読めないアメリカ外交のお話。

それにしても、メキシコと日本を同盟国に引きずり込む、あるいはそれがムリでも連合国との離間を図るというカイゼルと愉快な仲間たちの外交工作を読んでいるとゲンナリします。

そりゃまあドイツにとっては意味のある話で、当時内戦中だったメキシコへの工作については、大西洋の向こう側に潜水艦補給基地を手に入れることは「無制限潜水艦作戦で一発大逆転!これで勝つる」というドイツ参謀本部の構想に沿った話しです。それがムリでも米国がメキシコに干渉戦争を仕掛けてくれれば米国が欧州大戦に参戦する可能性が減るのでドイツとしては笑いが止まらないでしょう。
でも、メキシコから見ればドイツとメキシコの間の海上交通路が切断されている状況でドイツと手を結んだとして、何の特にもならない(内戦で追い込まれてヤケになった一部勢力を除く。でもそういう勢力は主流派では無い)。

まあメキシコの場合はまだ良いとして、日本にとってはヴィルヘルム二世の個人的趣味が先行した「黄禍論」の標的になり、さらに米国内で強まる黄禍ブームに振り回されるという一方的な貧乏くじ状態です。

日本は自分が受けていた(ドイツからの)招きについて、忠実に連合国に通告していたが、連合国はいつか日本が向きを変えてこの招きを受領するかもしれぬ、という不安を片時もしずめることができなかった。この不安はワシントンでも全く同様で、ワシントン当局はヨーロッパの注意が奪われている間に、日本がメキシコを通じてアメリカに対する冒険に乗り出す絶好の機会が長い間にはまたやって来ることを知っていた。いまここで、黄色いメガネを通じて物事を眺め、いたるところで「黄禍」を見ていた人達の想像と事実を識別することはむつかしい。
日本が実際に攻撃を計画していたのかどうかは、日本の文献を自由に見た西洋人がほとんど居ないので断言はできない。しかし、ドイツ、その他のヨーロッパ諸国、アメリカでは、責任ある地位の人々を含め大部分の人が、日本はアメリカを狙ってメキシコである種の行動を起こすことを計画中であり、いずれこれを実現するだろうと信じていたことは、文句なしに断言できる。

もちろん当時の日本には日本なりの野心がありましたし、第一次大戦後にその野心が最悪の方向に発揮されてしまったのは確かです。しかし、常にこういう見方をされていたらそりゃやさぐれるよなあ・・・と思うものの、海外領土拡張派な人達とドイツ大好きな人達がほぼ一致するというのはやはり不条理。