マッケン「白魔」感想

白魔 (光文社古典新訳文庫)

白魔 (光文社古典新訳文庫)

緑色の手帳に残された少女の手記。彼女は迷い込んだ森のなかで「白い人」に魅せられ、導かれて…(「白魔」)。平凡な毎日を送るロンドンの銀行員にウェールズの田舎の記憶が甦り、やがて“本当の自分”に覚醒していく(「生活のかけら」)。魔の世界を幻視する、珠玉の幻想怪奇短編。

「白い人」

冒頭でキリスト教的な倫理観から外れ、堕落することが「本当の悪」「罪」であるという倫理観が登場人物によって語られていますが、その実例として挙げられている手記の内容は、訳者が後書きで述べているような倫理からの逸脱を匂わせる言葉である「法悦」という言葉にはふさわしくないような。
むしろ郷愁というか幼児期へ戻ってきたかのような生理的な居心地の良さといった感覚がありますが、それを表す言葉が見つかりません。まあこれはあくまで思想の根っこの部分にキリスト教的な倫理観を持たない自分から見ての感想ですが。

「生活のかけら」

「本当の悪」について語られた「白い人」よりもむしろ「聖者」について語られた「生活のかけら」の方が自分としてはよほど恐怖を感じました。
後半になればなるほど抽象度を増す文体が、「現実」から少しずつ遊離していく様を描くようで物凄い恐怖を感じます。主人公の視点から見ると「解脱」といえるでしょうが、妻の視点から見ると果たして・・・・。どう見ても「社会人」→「引きこもり」→「離人症」って過程ですし、現在を舞台にすれば、たぶんモダンホラーとして充分成立するんじゃなかろうかと。