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報道が教えてくれないアメリカ弱者革命

読書

報道が教えてくれないアメリカ弱者革命 (新潮文庫)

報道が教えてくれないアメリカ弱者革命 (新潮文庫)

モヤモヤ感

うーん。なんだろうこのモヤモヤ感。内容に入る前に、先ずはモヤモヤ感を整理してみる。
著者は「ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)」の人。アメリカでの医療費が原因のカード破産や、学生ローンの問題点等、主要メディアではあまり触れられない貧困層・マイノリティから見たアメリカ社会を取り上げて大ヒットになった。本書も基本的には同じ構図だが、ノンフィクションというよりも体験記のような、より著者の思いが全面に出ている内容になっている。
で、何がモヤモヤしてるのかというと、本書ではこの人が一貫して

冷酷非情な連邦政府 vs 声なき弱者

という構図を全面に押し出しているところ。
何故コレが気になるのかというと、この構図って、先の選挙でも話題になってたティーパーティーやら極右団体やらの信ずる構図と基本的に同一だから。単に左右が違うだけ。(米の右な人の視点については「これは困った…アメリカの極右さんたちが信じる陰謀論トップ10 - GAGAZINE(ガガジン)」とか参照)
そしてもう一つ、自分の”正しさ”を全面に押し出し、疑っていないように見えるところ。もちろんそれが悪いというわけではなく、社会の暗部を取材するにはそういう使命感が必要なんだろう。ただ、なんというか、事実よりも内面的な正しさが優先されてるような印象がとても強い。
情熱先行型の文章(特にノンフィクション)は個人的に苦手。

電子投票システムと、反対者への迫害について

例えば冒頭で、タッチスクリーン式の電子投票システムに反対してハンストを行う人物について取り上げているが、その中にこんな文章がある。

タッチスクリーン式のこの投票機械はそれまでも各地で使われてきたが、2000年の大統領選では、フロリダ州の選挙区でゴアにマイナス一万六000票、ブッシュにプラス四000票入ってしまうという間違いが起きている。

まず、2000年の選挙の時点ではタッチスクリーン式ではなく、パンチカード式(候補者の名前の横に穴をあけるタイプ)の投票機械が使用されていた。米の選挙で当時使用されていた投票機械については下記サイト参照。

この選挙でパンチカード式の投票用紙が余りに紛らわしいと問題になったため、タッチスクリーン式の機械に移行したという経緯がある。そのため、”タッチスクリーン式のこの投票機械はそれまでも各地で使われてきたが、2000年の大統領選では”の下りは事実誤認と思われる。
もちろん、タッチスクリーン式の投票機械に問題が無いわけではなく、いろいろと怪しい部分は有るらしいが。取り敢えずは下記の記事等を参照。

WIRED.jp Archives

また、”フロリダ州の選挙区でゴアにマイナス一万六000票、ブッシュにプラス四000票入ってしまうという間違いが起きている”とあるが、票の再集計が認められていない以上、誤投票の総数を正確にカウントできる方法は無いように思えるが、どこから出た数字なのだろうか。
最後に、この本を読んでいると、投票の信憑性について疑問を差し挟む人物が全員不当に迫害されているように見えてしまうが、実際は投票の信頼性への疑問は大手メディアや上記のwiredなどでも当時積極的に取り上げられていたし、こういう市民団体(Black Box Voting - America's Elections Watchdog Group )も活動している。(迫害されているかどうかはともかく、Youtubeの映像が不当に削除されてたりすることは無いようだ)

米軍関係

貧困層の若者が大学進学を餌に米軍にスカウトされ、イラクで重いPTSDを背負った上に不十分なアフターケアが原因でホームレス化する事態や、大学でのJROTC(予備士官教育課程)による軍事教育がマイノリティを主な対象にしていることなど、様々な問題点を浮き彫りにしている・・・・んだがなあ。
イラク戦争自体が非実在大量破壊兵器が原因で発生したあんまり意味が無い戦争ではあるし、そのツケを貧困層やマイノリティが背負う形になっているというのは悲劇でしか無い。著者の主張は道徳的には正しい。
ただ、同じような図式は古代ローマ軍団(共和政後期以降、兵の供給源は貧困層。帝政以降は周辺民族)やイギリスの士官候補生制度(子供を士官候補として軍艦に載せる)や強制徴募(そこら辺を歩いてる一般人を強制的に軍に編入できたりする)でも起きていたはずで、ある意味覇権国家ってのは歴史的に見てそういうもんだとしか言いようが無いのもまた事実。

結局のところ、米軍がアジアから居なくなったら非常に困るというのは事実なわけで、何のかんの言ってこの文章を書いてる自分の日常がアメリカのマイノリティや貧困層の悲劇の上に成り立ってるという視点は持っとくべきだと思う。「道徳的な正しさ」とはまた別の次元で。

追記
と書いてみたものの、やはりモヤモヤ感が晴れないので米軍兵士の家計収入について調べてみるとこんな感じだった(

Military Recruiting Standards | Demographics of Military Personnel
)。内容についてはまた別エントリにまとめる予定だが、なんだかなあ。