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歴史群像アーカイブ「WW2戦車大研究」

読書

入門編としては悪くないかもしれないけど、他の歴史群像アーカイブシリーズと比べると濃度が一段落ちるような感じ。例えば、"オスプレイ・ミリタリー・イラストレーテッド"シリーズなら各章のテーマごとに単行本として出版されているのに、それを10〜20ページ程度の記事にまとめているため、どの章もいまいち物足りない感じがする。
個人的には、各国の野戦整備体制とか鉄道輸送やタンクトランスポーターの運用とか普通の入門書では読めない内容の記事が欲しかった。

以下、個別記事についての気付き。

・「幻の四式中戦車」
いろいろと身びいきが強すぎる気も。

・「チャーチル戦車大研究」
イギリス歩兵戦車の集大成であるチャーチル戦車について。"古臭くてもいいじゃまいか、英軍ドクトリンにマッチしてれば。"的な結論には同意。

・「クルセイダー戦車大研究」
同じくイギリス軍巡航戦車の系譜・・・というか、WW1での戦車運用から始まり大戦後のMBT出現までを巡航戦車を軸に解説。戦術だけではなく、ちゃんとドクトリンまで踏み込んで書かれている点は良記事。

・「フランス戦車大研究」
うーん。カール=ハインツ・フリーザーの「電撃戦という幻」を引用して、フランス戦車のハードウェアについて"一名用砲塔を採用したことによる対戦車能力の欠陥"とまとめてしまうのは同意できない。
電撃戦という幻」では、戦車個別の戦闘力で仏軍戦車の方が優勢であることが繰り返し繰り返し強調されている。(例えば、シャールB1一両がドイツ軍戦車13両・対戦車砲2門を「撫で斬り」したストンヌ攻防戦でのエピソード等)

また、著者がフランス戦車の"一名用砲塔による対戦車能力の欠陥"の根拠として「電撃戦という幻」から引用しているアニューでの戦車戦についてのエピソードでは、引用箇所以降で次のような記述がある。

12日、戦闘戦車部隊がアニューのフランス軍要撃線に到達。ここで未曾有の大戦車戦が始まった。第一ラウンド(12日)は(ドイツの文献には正確に記されていないが)、プリウー騎兵軍団が優勢勝ちをおさめた。ドイツ軍の各戦車隊指揮官がこの最初の遭遇戦でフランス戦車に正面から立ち向かったが、戦車同士の一騎打ちではソミュアに軍配が上がり、フランス側は戦車性能の優位を見せつけた。しかし、フランス軍戦車部隊もこの時初めて敵空軍部隊による空からの攻撃に遭い、相当なダメージを受けた。第二ラウンド(13日)でフランス軍は致命的な戦術ミスを犯した。要激戦はティルルモン(ティーネン)からユイまでの35キロメートルにおよび、戦車戦が始まる前、真珠の首飾りのように部隊が満遍なく配置されていたが、一旦乱れた要撃線を整備する際、プリウー軍団長がそれを元の横並びの状態に戻そうとしたのである。この措置により戦線に対敵遅延戦術を行えるだけの深さがなくなり、また、反撃に転じようにも予備兵力が不足していた。
(中略)
フランス軍がまっすぐに整理された戦線にこだわったため、結果的に要激線は消滅した。一箇所でも決壊部が生じると、騎兵軍団全体が戦場を明け渡して後退せざる得なくなったからである。

(強調部は引用者)

つまり

  • 戦車同士の戦いでは(一名用砲塔というハンデがあるにも関わらず)仏軍側が優勢
  • ドイツ側の空陸共同作戦によりフランス軍は大ダメージを受けた
  • フランス軍側がWW1型の静的な戦線を作ろうとしたことがドイツ側の勝利を決定付けた

ということ。

そもそも「電撃戦という幻」でのフリーザーの主張は

"個々の戦闘ではフランス軍戦車が圧勝した場合もあるが、フランス軍の命令系統はドイツ軍の運動戦のダイナミズムに対応できずに崩壊していった"

とまとめられると思うが、この記事の著者の主張は

"電撃戦を想定していなかったフランス軍は戦車に一名用砲塔を採用した。結果として個々の戦車戦闘でもフランス軍戦車はドイツ側に対抗できなかった"

というものであり、「電撃戦という幻」での主張とはかなり食い違う。引用するのであれば、その辺の食い違いを明記すべきかと。