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海と陸と悪玉論の不毛さについて

雑記

はてぶを巡っているとこんなページを見つけたのでメモがてら日記を追加。

帝国海軍が日本を破滅させた 帝国海軍が日本を破滅させた

後々、佐藤晃氏の著書については全文公開するとのことなので戦史ファンとしても楽しみにしてます。それはそうとして、佐藤晃氏の著書についてのあらましを紹介した上記ページの内容についてツッコミとか入れたいなと。
個人的な見解としては、下記のブクマコメントで全てな気がするが、もうちょっと言及してみる。

ka-ka_xyz どーでもいいですが、「海軍悪玉論」も「陸軍悪玉論」と同じぐらいばかげてると思うよ。てか敢えて「悪玉」を見つけるなら大日本帝国の制度デザイン。(もっと突っ込むとインド洋で通商破壊してるし・・・)

XX善玉論について

先ずは、リンク先で出ている「陸軍悪玉論」とは何かと言うと、こんな感じの主張。

日本陸軍は二・二六事件を起こし、満州事変について昭和の軍部独裁政治は陸軍の軍閥によるものであり、満州事変関東軍の暴走によって引き起こされたとする主張

上はWikipedia 陸軍悪玉論より

一方で、(阿川弘之氏の海軍三羽烏モノで特に顕著だけど)海軍の主流は米英協調主義であったが、陸軍の暴走に引っ張られた結果、不本意ながら米国に戦争を仕掛けざるを得なくなった・・・というのが「海軍善玉論」のストーリー。

で、今回のテーマとなってるページは、上記のような史観に対して

 陸軍士官学校61期生だった佐藤晃さんは、終戦以来ずっと「陸軍悪玉論」に疑問を感じていました。そこで、退職後に戦史研究を始め、その成果を執筆してきました。テーマは一貫して「海軍無能論」です。

という主張を唱えている。上記引用では「海軍無能論」となっているが、海軍の暴走が太平洋戦争での敗戦を招いたという主張は「陸軍悪玉論」と対となる「海軍悪玉論」と捉えても間違って無いと思う。(少なくとも、敗戦の責任を海軍におっかぶせるという論法は「悪玉」扱いだよね)

「海軍の暴走」の章について

 実際、大日本帝国において、政府と軍部の協力関係はまったくといっていいほどありませんでした。
 軍隊を動かす最高指揮権のことを「統帥権(とうすいけん)」というのですが、明治維新以後、統帥権は政府から切り離されて独立していました。そしてその統帥権自体、陸軍と海軍とに分裂していたのです。
 したがって、大東亜戦争では、日本に陸海軍を統括する最高司令部が存在せず、そのために戦略が不在となり、個々の戦闘はまったく関連せずに個別に行われたのです。
 つまり、問題の本質は、陸軍と海軍とで統帥権が分断されていたことなのです。

この主張について異を唱える人はあまりいないと思う。また、海軍軍縮条約がらみで、統帥権問題を政治問題化させたのも元々海軍だし。
でも、この問題は「海軍のせい」「陸軍のせい」というよりも、大日本帝国憲法(と大日本帝国の制度設計)の問題だよね。本来であれば、軍事だけではなく外交も含めた政府の政略方針が先にあり、その下に(陸・海軍共通の)国防方針があるべきなのに。

「艦隊決戦主義と仮想敵をアメリカにした愚挙」の章について

この件についても、結構海軍に非がある。そもそも海軍が目指していた漸減作戦(平たく言うと、太平洋を渡ってくる米海軍を飛行機や潜水艦ですり減らしつつ、最後には艦隊決戦で勝利するという作戦)は、戦力的に不利な日本海軍が「負けない」ための戦略であり、アメリカに勝つことを初めから想定して無い。日露戦争的な、外交を通じて辛うじて勝利するための戦略。でも、その辺が政府にも陸軍にも全く伝わってない。それでいて「ウチの方針には口を出すな」と言うもんだから、そりゃ政府や陸軍は「対米戦争は海軍に任せておけば大丈夫」となるよね。
でも、そもそも米国を敵に回すことになったのは満州事変日中戦争で陸軍が逝け逝けドンドンと国際情勢を無視したアグレッシブ過ぎる対外拡張を繰り返した結果だよね(まあ、海軍も上海事変では結構逝け逝けドンドンだったらしいけど、主犯は陸軍だよどう見ても。)国際関係があそこまで悪化しなければ、石油の禁輸を食らうことも無く、南方資源地帯の確保なんて必要無かったし、対米戦争する必要も、米から日本に戦争を吹っかける余地も無かった。
当時の日本は自分で自分の首を絞めているとしか思えない。そりゃ米に付け込まれるよね。

「対米英蘭蒋戦争の腹案に真珠湾攻撃はなかった」の章について

真珠湾攻撃と南方作戦の関連について

元ページでは、

 また、「初期進攻作戦」(南方作戦)の成功は、真珠湾でアメリカ太平洋艦隊を壊滅させたことが大きく貢献しているという説がありますが、これも疑問です。なぜなら、真珠湾以外の南方作戦には、帝国海軍の戦艦部隊も機動部隊もほとんど参加していないからです。

アイタタタ。確かに南方作戦には戦艦部隊も空母機動部隊も参加して無いものの、巡洋艦・駆逐艦はほぼ根こそぎ的に南方作戦に借り出されてます。
で、何故このような戦力配置が出来たかと言うと、真珠湾攻撃により米太平洋艦隊が無力化されることが前提だったから(ついでに言うと、「真珠湾を徹底的に破壊しておけば」的な跡知恵はこの辺の経過を無視した議論。真珠湾攻撃の目的は南方作戦の支援)。戦艦だけで艦隊決戦なんてできません。仮に真珠湾攻撃を行われず米太平洋艦隊がフリーハンドで動けたとした場合、南方作戦に投入される海軍戦力が史実より遥かに少なくなるはず。あるいは史実+真珠湾へ投入されるはずの空母機動部隊が投入されるとしても、「米太平洋艦隊が出撃」という情報が日本側に捉えられた時点で、南方作戦に参加している海軍戦力は全て漸減作戦に投入されただろう。史実どおりのスムーズな攻略はどう考えても不可能だと思われる。

インド洋での通商破壊について

英国を屈服させるための「西亜作戦」をなぜ実行しなかったのかという疑問もわき上がります。英国屈服作戦は、ドイツのロンメル(1891〜1944)将軍の中近東・北アフリカ・スエズ作戦を裏で支え、さらにソ連、蒋介石軍への「連合国の輸送大動脈」を絶つものなので、これを実行していれば、わが国はアメリカに対してかなり有利な条件で和平に持ち込み、ドイツの対ソ戦も有利な結末になったはずだからです。
しかし、帝国海軍は連合艦隊を温存し、当時、インド洋を通して行われていた連合国の通商路を破壊しませんでした。

それなりに活発に活動していたんだけどねえ。間接戦略であるインド洋より、今目の前で米軍と殴り合ってる太平洋の方が重要だよね。

 【質問】
 太平洋戦争で日本海軍の潜水艦隊が通商破壊戦を行っていましたが,連合軍の戦略に何らかの影響を与えたのでしょうか?
 また影響を与えなかったとすれば,何が日本軍の間違いだったのでしょうか?

 【回答】
 開戦から1年弱ほど仮装巡洋艦まで投入して,インド洋でそれなりの成果を上げている.※
 そんでもって,インド洋に1個潜水艦隊規模を投入しての大々的な通商破壊作戦を行おうとして準備中に,ガタルカナルでの戦いが起こり,潜水艦がほとんどソロモン海に投入された.
 それでも細々と1個潜水戦隊規模で通商破壊を行ってたのだが,連合軍の戦略に影響を与える程度の損害を与えることが出来なかった.

 結局のところ,通商破壊を行うにしろ,太平洋には通商路がほとんど存在せず,前線の兵站への攻撃が関の山だが,日本軍の方針として,商船よりも軍艦,それも大物狙いを優先した戦略方針に間違いがあったとしか.
 まあインド洋で大規模な通商破壊をやれれば,また違った展開になるだろうけど,その際でも潜水艦の損害が激増して,先細りになったであろうけどね.

 また,日本の伊号潜水艦は艦隊決戦用の潜水艦で,ドイツのUボートシリーズの様に通商破壊に適した潜水艦ではなかった.

 ※ 兵力誘引という,通商破壊作戦本来の意義から考えれば,「それなりの成果」という見方には疑問の余地もある.

上は「軍事板常見問題&良レス回収機構」より

そもそも、日本が叩ける"連合国の通商路"ってどこ?インド洋や、米本土と米軍の最前線を結ぶ航路は物資の補給線であって、国家の生産力を維持するための原油・資源・食料等を運ぶ通商路と比較に成らないぐらい護衛されてるし、輸送船の数も少ない。
米国沿岸の商業航路ぐらいしか無い気がするなあ。
日本海軍が通商破壊を軽視したのはそれ相応の理由があるってことで。
また、通商護衛を軽視したのも、護衛を重視すると今度は正面戦力が足りなくなるからで・・・ほんと貧乏はいやだね。それ以前に、貧乏なのに世界最強のチート金持ち国家にケンカを売るのはどうかと思うが。
そもそもインド洋を叩いたところで、ドイツにとっては確かに益だが、日本に直接的メリットが何も無い罠。援蒋ルートの切断についても、日本陸軍は中国国民党軍との戦闘というよりも、中国大陸の広さに溶けて行った印象が有るし・・・そもそも米軍により南方資源地帯と本土との間に楔を打ち込まれてしまうと、中国大陸でどんなに善戦しようが詰む。

まとめ

なんというか、全体的に「嘘」は無い・・・・が「陸軍悪玉論」の代わりに「海軍無能(悪玉)論」を唱えているだけではないかという印象を受ける。こういう姿勢は陸海軍の対立と同じぐらい不毛な気がするなあ。
「海軍善玉!陸軍悪玉!」と唱えてる人が佐藤氏の著作を読んだとして「陸軍善玉!海軍悪玉!」になるだけだとしたら余りに悲しい。