「ドキュメント高校中退」

ドキュメント高校中退―いま、貧困がうまれる場所 (ちくま新書 809)

ドキュメント高校中退―いま、貧困がうまれる場所 (ちくま新書 809)


都市貧困層の子供が公立底辺高校へ入学するものの、まともに勉強する機会も与えられずに育ったことから「中退→貧困の再生産」という悪循環に陥っていると言う内容。

話は外れるが、田舎出身者の自分にとっては、県立高校が底辺高で有りうるということがまず第一に衝撃的だった。自分の田舎だと、高校の格付けってこんな感じだったので。

私立超進学校 > 県立高校 > 私立進学校 > 底辺私立

それはともかく、著者はこの悪循環を断つために以下の提言をしている。

  1. 高校の義務教育化、学費の無償化、中退制度の廃止
  2. 高校教育の内容を職業教育中心に
  3. 貧困層の家族に対する経済的援助、保健師・ソーシャルワーカーの充実
  4. (上の提案が実現するまでの当面は)義務教育の奨学援助制度、高校の授業料免除制の充実

ただ、これらの案が現状の問題を解決するかと言うと、どうも怪しい気がするが。
著者自身が書いているように、貧困層の子供たちが学校の授業に付いていけずにドロップアウトしがちになるのは、家庭内で幼い頃から「努力は報われない」「勉強(読み書き算盤)なんて役に立たない」という環境におかれ続けた結果な訳で、提案1,2は余り実効性は無いのではないか。学習意欲の高い子供を潰しちゃいそうだし。それに結局のところ、義務教育化によって「中退」を無くしたところで、「中退」が「不登校」に変わるだけで実質的には状況は変わらないかと。提案3についても、行政のやれることは限られると思う(現状よりはマシだと思うが)。

じゃあどうすればいいかというと、地域ぐるみで問題のある家庭や子供の面倒を見合うような濃密な地域社会を立て直す位しか思いつかない。「濃密な」ってのはそれこそ他所の家庭の内情にまで手を突っ込んでくるような、昭和の農村とか浅草下町長屋的な意味で。
でもそんな社会に自分の居場所は無いだろうな。オーウェルも真っ青なディストピアだとしか感じない。

同じようなテーマで70年代イギリスでの「ブルーカラーの再生産」を取り上げた「ハマータウンの野郎ども (ちくま学芸文庫)」を取り上げたかったが、本棚から発掘できないので断念。「学校秩序からのドロップアウトが、実はブルーカラーの世界への適応」みたいな必ずしも否定的ではない書き方だったと思うが。「ドキュメント高校中退」と「ハマータウンの野郎ども」の差がいったいどこに有るのかとか暇が有ったら書いてみるかも。